戦略なきハッタリ

ホスト張りのカメラ目線をキメる永田仁。カリスマ社長はひょっとしてナルシスト。
 株式会社プライムシステム(本社=江東区深川2-8-1)は、IT(情報技術)関連業界に於いての数少ない勝ち組企業の1つである。
 会社設立から僅か10年余りで、大阪証券取引所(ヘラクレス市場)に上場を果たし、其れに伴い同社の業績は右方上がりの成長を続けてきた。

 技術商社のユアサ商事を退職後、若くして同社を立ち上げた永田仁は、現在は国内外に10社を超える関連会社(連結子会社含む)を保有し、企業集団のトップとして君臨している。
 其れでも、所詮は時代に上手く乗っただけの“成り上がり企業家”といったところが、永田仁に対する大方の評価であった。

 しかし、そんな財界の冷ややかな目も、東京証券取引所の電算子会社、東証コンピュータシステム(TCS)の株式を所得し、連結対象子会社に組み入れた時点で一変する。
 昨年3月、同社がTCSの発行済み株式64.5%に当たる25,800株を約32億円で買収したことにより、永田仁は名実ともに一流財界人の仲間入りを果たしたのだ。
 継続的な利益貢献が見込まれ、更に2年後を目処に上場をも予定しているTCSを買収したことで、同社の更なる成長は約束されたようなものであった。ところが、順風満帆かに見えた同社はこの時を頂点にその成長に陰りを見せ始めた。

 そもそも、約32億円もの資金を投じたTCSの買収に無理があったとの指摘がある。拡大路線をひたすら突っ走ってきた同社であるが、情報産業界の急速な冷え込みも重なり、財務状況は一気に悪化していった。
 第三者割当増資による新株式の発行や、新株引受権の行使による資金調達をもってしても、盛り返すには至らなかったようだ。その状況を裏づけるように、同社は昨年末に手形を乱発したことでも、苦しい台所事情が伺い知れる。

 更に、既存の取引銀行からの借入れが困難だったのか、或いは危機的状況をひた隠しにしたかったのか、永田仁は保有する自社株を担保に、街金から数億円の融資を受けたとの怪情報まで飛び出る始末である。
 痩せても枯れても、上場企業のオーナーが街金融資に頼るようでは、お先真っ暗としか言えない。
市場関係者を驚かせたTCS買収を成功させた折、今後も2桁増益の高い成長を見込まれてはいたが、それから僅か数ヶ月でこの様である。結局、永田仁が推し進めてきた経営戦略は、中身も無いハッタリに近い博打でしかなかったのだ。

 TCS奪還に東証は躍起?

 同社の『第13期有価証券報告書』を見ても、グループの業績を表わす連結業績では3割を越す売上げ増を達成したにも関わらず、営業利益は45%減に落ち込み、同期の純損失は30億円にまで膨らんだ。いみじくも、TCS買収資金が丸々損失として残ったことになるのだが、当初から、この状態ではTCSの上場を待たずして株式の放出も早晩にもあるとの見方も囁かれている。

 確固たる経営展望も持たずに、グループの拡張だけを目指してきた永田仁は、ハッタリだけで投資家を煽り一人利益を吸い上げた、あの孫正義にそっくりである。
 正に、成り上がりの末路とも言うべき同社の現状に危惧を抱くのは、なにも株主や投資家だけに限った事ではない。
 一番に不安を抱いているのが東京証券取引所ではないかと思われる。
 40年近くも大事に育て上げてきた子会社のTCSを、大金と引き換えに売ってしまったことを、今では後悔しているに違いない。
 しかも、当時プライムシステムとの買収計画を積極的に進めたのは一部の東証役員のみで、大半はこれに反対であった事からも「それ見たことか」と、TCS放出が失敗であったとの声が日増しに大きくなってきている。
 上場を控える企業の動向には、何かと注目が注がれるが、こういった時期での“親変わり”は異例でもある。永田仁と買収を進めた東証役員との間に何やらきな臭い疑惑を感じるのは果たして当紙だけだろうか?

 さて、現在の東証の立場を例えるのなら、箱入り娘を万全を期して嫁入りさせたはずが、嫁ぎ先で傷ものとなり、帰ることも儘ならないといった状況のようだが、親としては可愛い娘を何としてでも取り戻したいとの考えらしい。
 ここに来てプライムシステムの資金繰りが悪化したのも、東証が金融機関に圧力をかけたからとの噂もある。
 そう言えば、つい先日プライムシステムの監査法人が、会計基準に対する意見の相違があったとして、監査業務を辞退するといった出来事があったが、この監査法人は東証の“ベタ付監法”とも言われているが単なる偶然なのか?
 傍から見てると、形振り構わずTCSを取り戻そうと、東証が躍起に動いているとしか思えない。

 しかし、兵糧攻めにあう永田仁とて易々と諦めはしないだろうから、独自の資金調達を行なっても不思議ではない。街金頼みの資金繰りも俄然真実味が帯びてきたが、貸主とて銭の匂いを嗅ぎつける能力に限っては、成り上がりの永田仁に負けてはいない。下落する一方のプライム株の代わりに、上場確実のTCS株を担保に要求してくるに違いない。
このまま同社と東証によるTCSの奪い合いが長期化すれば、ブラックと称される金融勢力や企業ゴロの類が、この騒動に割り込んでくることは避けようがないだろう。

 日本経済の動向を示す重大な役目を担う東証が、若造に好き放題に振り回された挙げ句、今尚騒動の渦中にあっては、景気回復などは夢のまた夢である。
 もっとも、良い夢を見続けてきた永田仁は、これから悪夢に魘される日々が続くことだろうが“マネーゲーム”は終わったのだから仕方がないことだ。
 精々ゲームオーバーに気付かずに悪足掻きをして、当紙読者を楽しませてくださいね。

(つづく)

 
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