銀行とサラ金 利害関係一致
「ババーンと!」使っちゃうとお金が無くなっちゃうので、使い過ぎにはくれぐれもご注意を!(アコム木下社長)
 大手銀行系を中心とした金融界に於て、存在そのものが疎んじられてきた『消費者金融業者』であるが、最近はその認識が変わりつつある。

 大手行はこれ迄、担保主義を原則とした融資を実行してきており、個人向け無担保ローンは「サラ金の分野」として一線を画してきた。しかし、自らが積み上げた負の遺産『不良債権』の処理に手間取っているうちに、本業である企業向け融資にも消極的に為らざるを得ず、メガバンクといえどもその経営は磐石とは言い難い状況に陥っている。

 そこで、大手行の殆どが局面打開の一手として目を付けた事業が、サラ金(消費者金融)との業務提携である。

 担保を示さない個人に対する融資は大手各行は不馴れであり、その与信審査の能力は乏しいとされる。更に、不良化した債券を担保によって回収処理してきた銀行には、サラ金のように「違法すれすれ」ともされる「強引な手段を用いても回収に走る」貪欲な迄の執念深さは有しない。

 それでも消費者金融業務に参入をしたいのなら、頭を下げて教えを請えばいいだけの話である。しかし、散々見下してきたサラ金相手に、今更下手に出ることは大手行のプライドが許さない。

そこで、優位な立場を崩さないが為に打ち出した策が、強固なブランド力と豊富な資金力を、狙いを定めた大手サラ金業者の鼻先にぶら下げるといった「一本釣り」であった。

 サラ金にとって何が一番大事かといえば、資金調達先である“金主”だ。もちろん、金主が銀行であることは言うまでもない。

 更に“金貸し”といった負のイメージを払拭するには、銀行ブランドとの業務提携は何より効果的であろう。モデルやタレントを使い、テレビCMを始めとするあらゆる媒体で湯水の如く銭を使って自社の健全性をアピールしたところで、銀行が持つ信頼性を得ることは難しい。故に、大手行からの業務提携の申し出はサラ金にとって、正に表舞台に立つ千載一遇のチャンスといってもよい。

 結果、金融界のはぐれ者とされながらも独自に積み上げてきた個人向け融資事業のノウハウを、資金と信頼を得るが為に銀行側に提供する、といった“屈辱”的な対応を受け入れざるを得なくなった。

 銀行にしてみれば、自行のプライドを堅持しつつ新事業のノウハウをいとも容易く手に入れた事になる。それに加えて、高収益を続ける優良なサラ金業者を融資先として丸抱えすることで、銀行本体の融資事業にも多大な利ザヤを落とすことになる。

 
 洗脳に匹敵 タレントの力
「あーっ!」とその時「あーっ、借りすぎた!」と思ったその時ではもう遅すぎるのでは?(三洋信販小野社長)
 この様に、互いの思惑を背景として最近続々と誕生しているのが『銀行系サラ金』の正体である。

 その代表的な企業が、東京三菱銀行アコムが共同出資した『東京三菱キャッシュワン』と、三井住友銀行三洋信販の提携による『アットローン』の2社といわれている。双方とも、旧財閥系の銀行と経営状況が安定している大手サラ金との組み合わせによるものだ。

 結局、銀行とサラ金のちょうど中間に位置する新たなスタイルの消費者金融が発生したに過ぎないが、双方の利害が噛み合って出来たこの新事業が、果たして消費者にとっても望ましいものかといえば決してそうではない。莫大な公的資金の注入、即ち国民の税金によって生き長らえた銀行はその恩も忘れ、不良債権処理という大義の下、多くの企業を倒産に追い込み、国民の生活基盤である職を奪った。

 一方のサラ金は、過剰な貸し付けによって個人の自己破産を増加させたうえ、整理屋・闇金といった悪質業者を生み出す温床を作り上げた。そんな両者が歩み寄って立上げた事業が、消費者側に立った有意義なものである筈がない。

 しかし、長引く不況が禍してか、消費者はこの新たな金融事業に見事なまでに嵌ってしまったのだ。これまでサラ金に手を出すことを躊躇していた消費者も、「銀行系なら安心だ」と、借金を“気軽なもの”と勝手にイメージしてしまったのだ。この「借金は恥ずかしいことではない」というイメージを消費者に植え付けることこそが、既存の銀行でもサラ金でもない新たな金融事業の顧客獲得には最も重要な課題だったのである。

 東京三菱キャッシュワンのテレビCMで、タレントの加藤茶が「たまにはババンと!」と陽気に振舞い、借金してでも欲求を満たし楽しもうと消費者に呼びかけているが、正に『サラ金=借金=悪』のイメージを覆すための戦略である。また、アットローンのCMでも同様に、ユースケ・サンタマリアが所持金不足を借金で気軽に埋めてしまうといった内容のCMが、連日テレビ画面に垂れ流されている。

 もし、同様のCMを既存のサラ金業者が流したらどうなるのか。例えば業界最大手の『武富士』が「借金してでも楽しもう。足りなくなったら又借金をしましょう」等と無計画な借り入れを煽ったなら、即刻事業免許を剥奪されかねない。だからこそ、あからさまに「借りてください」とは言えずに、あの意味不明なダンスCMを、しかも早朝深夜帯にしか流せないのである。

 
 「錦」着てても中身はサラ金

 斯様なまでに銀行ブランドの信用力は強大であり、大手サラ金がその恩恵を授かりたいと考えるのも当然だといえる。

 だが、借り入れする消費者は、決して銀行ブランドに惑わされてはいけない。この東京三菱キャッシュワンとアットローンは、大手行がバックに付いていようとも、その中身はサラ金と寸分も変わらないのだ。

 キャッシュワンでは、主要業務である審査と返済遅延後の回収をアコムが担当するし、三洋信販はアットローンへの出資シェアを拡大し本格的な経営参入を果たしている。更に、銀行、サラ金、子会社と顧客情報を共有することで、闇金並みに消費者を順繰りとたらい回しにすることも可能となった。結局、大手行は企業を食い潰しただけでは飽きたらず、サラ金と手を組むことでその照準を個人に向けたに過ぎないのだ。

 この手の金融ビジネスが氾濫すれば、間違いなく個人の自己破産は今以上に増加するに違いない。信頼というブランドをかざしエリートぶる大手行とて、元をただせばサラ金同様の金貸しであり、そのワル知恵には寧ろ「尊敬」の念さえ抱いてしまう。

 しかし、両者にとっては一見良いことずくめのこの業務提携には、大きな落とし穴も存在する。それは、表面上は一流企業とされる大手サラ金業者の、裏の顔ともいうべき企業体質にある。

 サラ金最大手『武富士』では、対立する人物への盗聴を指示したとして現職会長が逮捕された。東証一部上場企業のトップが犯した犯罪では前代未聞の醜態であり、業界に対する世評は厳しさを増している。又、今では財界人気取りのサラ金経営者のなかには、過去を掘り下げれば出資法違反等(恐喝・詐欺・婦女暴行…)で逮捕された者が多数いるのも事実だ。

 大手行と肩を並べるまでに成り上がったとはいえ、所詮は『マチ金』と称される小商いから伸してきた連中である。そんな輩が、自己利益を犠牲にしてまで消費者保護を考えるはずがない。

 ましてや、銀行と共に歩むということは社会全般を見据えた経済活動を実践しなければならないが、目先の銭のみを追い求めてきた連中には土台無理な注文である。世評を無視してまでサラ金との業務提携という“実”を選択した大手各行であるが、その前途が多難であることは言うまでも無い。

 次号では、三井住友銀行と共にアットローンを全国展開している『三洋信販』に焦点をあて、その問題点を追求してみよう。
〔以下次号〕

 
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