20億詐欺 10億株取引 | ||||||||||||||
先ずは、去る2月5日に横浜地裁で行われた、ある詐欺事件の初公判を伝える朝日新聞の記事をご一読頂きたい。 《個人の顧客から預金名目で資金を詐取したとして、詐欺と有印私文書偽造・同行使の罪に問われたシティバンク(東京都港区)の元横浜支店長の河南勝信被告(46)に対する初公判が5日、横浜地裁(=河村潤治裁判長)であった。河南被告は「間違いありません」と起訴事実を認めた。 この記事の文末近くに、「詐取した資金が株取引に約10億円使われた」という記述があったことに気付かれたであろうか。実は、河南被告が詐取した資金を託した相手とは、業界3位にランクされる大手証券会社「日興証券」(現『日興コーディアル証券』=千代田区丸の内3-3-1)だった、と同被告は証言しているのである。 しかし本紙は、仮にこの証言内容が真実だったとしても、「詐欺行為で得た資金の運用に荷担した」という部分だけを取り上げて追及するつもりはない。問題はその勧誘の仕方にある。では、日興証券が行なった勧誘とは、一体如何なるものだったのか? それは、4月20日に開かれた第3回公判の被告人陳述で明らかとなった。 |
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現実となった外資導入 | ||||||||||||||
ところが、これらの銘柄は河南被告が自らの意思で選別したものではなく、当時同被告の担当だった営業マンから「インサイダー情報を入手している」銘柄として勧められたものだというのだ。特に日興株については「今後外資導入による株高が見込める」と強く勧められた、と同被告は陳述している。ここで、ひとつ「インサイダー取引」のお浚いといこう。 インサイダー取引とは、上場会社(店頭登録会社を含む)の役職員や大株主などの「会社関係者」が、その会社の株価に影響を与える「重要情報」を知り、その情報が公表される前に株式等の特定有価証券を売買することを指し、証券取引法で固く禁じられている。これに違反した者には「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科せられることになる。この規制は会社関係者から情報を得た者にも適用され、しかも「会社関係者」の定義には社員やパートタイマーも含まれるなど、その適用範囲はかなり広い。 然らば、インサイダー情報を基にした株の売買を顧客に勧めた証券会社(の営業マン)の行為はどうか。 この点を「証券取引等監視委員会」の調査部に問い合わせてみたところ、『証券会社の行為規制等に関する内閣府令』なる法令に、証券会社の「禁止行為」の1つとしてキチンと明記されている、という答えが返ってきた。やはり、歴とした犯罪ではないか。 逆に、河南被告の陳述内容に虚偽はないだろうか。 1つに、「日興証券に外資が導入された」という事実は、河南被告の供述が裏付けされたも同然と言えよう。さらに、河南被告の弁護人が「日興証券が勧めたインサイダー取引で、約10億円の損失を出した。このことが結果として詐欺額を巨大なものにした」(最終弁論)と、公判の場でハッキリと述べているのだ。これらの状況から判断すると、河南被告が陳述した内容はかなり信憑性が高い。 |
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真心は何処? | ||||||||||||||
そこで早速、日興コーディアル証券に取材を申し入れてみた。取材に応じたのは、日興コーディアル証券の持ち株会社『日興コーディアルグループ』(中央区日本橋小網町9-2)「総合管理部」部長の田中芳信氏と西澤良典氏。同社の組織図を見てみると、日興コーディアル証券の内部監査や検査を行なうセクションは「第一検査部」、総合管理部は「グループ業務の社会的運営」とある。イマイチその役割がピンとこないが、対外的な折衝、所謂渉外を担当するセクションであることは間違いない。
両氏とのやり取りを要約すると、以下のとおりである(事前に河南被告の発言要旨を説明し、事実確認のための調査を要請してあった)。
―と、概ねこのような内容であった。
通常、株取引を行う際には証券会社に口座を開設する必要がある。その口座が無いのだから取引事実もない、というのが彼らの論法だ。しかし、河南被告のように公然と取引できない事情を抱えた者が、妻や愛人の名前で口座を開設したケースは、過去いくらでもある。まぁどちらにしろ、この対応を見る限り「真心を込めた」という意味の『コーディアル(CORDIAL)』という形容詞は、彼らの社名には相応しくないのは確かなようだ。 河南被告への判決は今月14日に言い渡される(本稿はそれ以前に作成されたものである)。しかし、今回に限らずこの種の事件では、被害者の泣き寝入りに終わるケースが圧倒的に多い。高齢者が多いこの事件の被害者たちのためにも、司法当局の更なる捜査を強く要請したい。 |
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