個人情報保護法の効果

借入残高や勤務先住所までギッシリ。杜撰な管理が犯罪を招き、そのツケは消費者へ…何とも不条理な話だ。
 現在、国や地方公共団体を対象としている「個人情報保護法」が、来年4月を以って民間企業をも含む完全施行となる。

 加えて今年4月には「個人情報の保護に関する基本方針」も閣議決定され、個人(顧客)情報を保有し事業利用している企業はその対応に追われている。

 しかし、情報管理の体制強化を進める企業をあざ笑うかのように、個人情報流出は一向に収まる気配がなく、逆に流出量は大規模化し業種も多岐に渡る有り様だ。まさか、関連法が整備化され情報の管理体制が構築される前の、駆け込み的な現象ではないはずだ。

 企業が保有する個人情報の外部流出は、何も今に始まった訳ではない。その証拠に、個人情報を売買する業界は表だって認知されており、その情報内容による相場(基本価格)までが既に確立されている。

 所謂「名簿屋」と言われる業界だ。

 消費者の元に、見知らぬ者から唐突に送られてくるダイレクトメール(DM)や電話といったものは、その大半が販売等を目的とした業者が、何らかの個人情報を名簿屋から入手し行なっているものといって過言でない。

 社会人になった途端に、生命保険会社から加入案内の営業があったり、雑誌の懸賞に応募したり街頭でのアンケートに応えたりすると、直ぐ様その手のDMなどが送られてきたといった経験は誰もがあるだろう。中には、住宅展示場やモデルルームを見学した後日、それらと全く関係ない不動産業者から、マンション購入の営業があったなどの話も聞く。

 この手の例を挙げればきりが無いが、斯様なほど個人情報は、それを必要とする業者と提供する名簿屋との間で、日常的に取り引きされているのである。

 しかし、この程度なら個人情報の乱用とはいえないだろう。企業が個人情報をもとにターゲットを絞り込むということは、其処には高い確立で需要が存在することに他ならない。消費者側にとっては「丁度良かった」といった具合に、両者の思惑が合致することも、決して珍しいことではないからだ。

 加えて、「住所」「氏名」「年齢」「電話番号」などの基本情報(ハローページやタウンページに毛が生えた程度)ならば、最早守られるべき個人情報とはいえないのが現状だ。飽くまで、基本的な個人情報を適切に取り扱うのが前提であるが、消費者に過分な不利益が生じない限りは、過剰に“保護”を訴える必要はないだろう。

 だが、流出した顧客情報が企業恐喝等の犯罪の材料として悪用されたり、消費者に多大な損害を与えるとなれば話は別だ。

 そこで、今だに続発する顧客情報流出の中で、その「規模」と「流出情報の内容の重大性」で極めて大きな問題を抱えることになった消費者金融大手「三洋信販」(福岡市=小野社長)に焦点をあて、同社とこの場合の被害者ともいうべき顧客に何が起こったのかを探ってみたい。

 先ず、顧客情報の流出が発覚したのが本年の1月であり、切っ掛けは外部の人間による顧客リストの持ち込みであった。その後の同社の内部調査によって、それが前年10月に流出した情報であることが判明した。

 
 罪の意識が稀薄化

 同社は流出の発覚以降、小野社長を頭に社外第三者の委員を加えた調査委員会を設置し、事実の確認作業に入ったが、外部からの持ち込み等による顧客リストが後を絶たず、結果、大手新聞各紙に漏洩件数と情報内容をその都度「お詫び」として、繰り返し掲載するはめとなった。

 斯く言う本紙にも、資料提供といった具合に様々な協力者(?)から同社の顧客リストが提供されたが、その全てを本来の所有者である「三洋信販」に手渡している。この行為は今もって続けており、同社の東京本社や都内各地の営業拠点である「ポケットバンク」にわざわざ足を運んでは、直接手渡す手段をとっている。

 この手間のかかる手段をとっているのも「重要なものだから」といった配慮から、本紙が自主的に行なっているもので、本来ならば同社が定期的に連絡を寄越し、現物があるなら自ら受け取りに来るのが常識だろう。そればかりか、どうしても手渡す時間がないと告げると「着払い宅配便で送って下さい」等と言い放つ始末である。

 企業にとって、所有する顧客情報は現金に匹敵するか、或いはそれ以上の価値がある財産だといえる。それをそこら雑多の書類と同等の扱いをするのだから、同社の体質がいかに無責任であるかを改めて知ることになった。

 これらの対応を実際目のあたりにすると、同社はこの顧客情報流出問題に対して、何処まで真剣に取り組んでいるのかさえ疑問に思えてくる。多分、顧客に与えた甚大な被害実態への認識すら、不足の状況であるに違いない。

 ただ、ここ迄杜撰な対応になったのにも訳がある。同社の顧客情報流出問題が表面化したのと同時期に、三洋信販より遙かに知名度の高い企業が相次いで情報流出の愚を犯してしまったのだ。

 本来ならば、一般消費者からも総叩きにあっても仕方がないほどの問題で、その対応も社運を左右する程厳しいものになる筈が、沢山の「お仲間」が出来たことで、世間の耳目が分散してしまったのだ。

 

 被害者ヅラで告訴するも…

告訴不受理の理由が企業体質を物語っている(小野社長)
 例えるなら、通信事業大手「ヤフーBB」をめぐっては、流出した顧客情報をもとに巨額の恐喝未遂事件が発生し、最近になっては情報を引出し流出させた容疑者が逮捕されもした。

 また、テレビショッピングを活用し急成長を続けていた「ジャパネット・タカタ」の購入者リストの流出も明らかになった。

 ただ、この両社に共通するのが、流出した情報内容が「基本情報」に過ぎなかったことである。

 それでも「ヤフーBB」は、会員四百数十万人に対し500円の金券を送り、約40億円の費用をかけ事後処理を行なった。

 また「ジャパネット・タカタ」は、営業手段の柱であるテレビ・ラジオでの商品紹介を自粛することで自らを厳しく罰し、顧客に対しけじめを付けた。

 だが、基本情報のみならず“貸付残高”といった信用情報までも流出させてしまった「三洋信販」の対応は今だに不透明なままだ。その対策遅れが架空請求なる犯罪を助長させるに至って、今尚多くの顧客に二次的被害を与え続けているのだ。

 この様な状況下で、打開策として被疑者不詳のまま“告訴”に踏み切った「三洋信販」だが、警察当局から「社内調査が不十分」と門前払いを喰らうという、一流上場企業とは到底思えない恥を晒した。

 しかし、受理はされなかったものの“告訴”をしたことで、流出問題の矢面に立っていた同社が一転して被害者の立場を得ることになったのだ。結局この時を境に、問題発覚後、影を潜めていた同社の広告がテレビ・大手新聞を中心に一斉に復活したのである。

 顧客の信用情報を流出するといった、金融事業者としての認可を剥奪されても致し方無い最悪の失態をしでかした同社であるが、それを徹底的に追及して当然の報道機関の動きは、何故か鈍いものであった。これには、「問題が長期化すると自社の損失にも繋がる」と利益追求を第一に考えるあまり、大広告主様の批判報道には手心を加える遠慮があったのでは?と勘繰りたくもなる。

 しかし、情報を盗み出した者さえ未だ判明に至らないということは、その犯行手口も特定出来ずにいることになる。ならば、再発の危険性は十二分に考えられる訳で、主務官庁ですら同社の営業に何らの規制もかけない現状は甚だ理解に苦しむところである。

 今現在「三洋信販」の大本営発表によれば、流出した顧客情報の確認件数は約1万8,000件(本紙が持ち込んだ件数とほぼ一致)であるが、最大120万件に上る流出の可能性をも示唆している。 

 ということは当然、今後も架空請求等の犯罪に巻き込まれる同社顧客は後を絶たないと予測されるが、不幸にも金銭的被害にあったからといって、同社に弁済に応じる義務がない以上は泣き寝入りするほかないのだ。

 結果的に自社の顧客を犯罪者の群れに放り込んでおきながら、おざなりの注意を促すのみで、何かあったら「自己責任」と突き放し平然と“ゼニ儲け”にひた走る「三洋信販」は、正にサラ金の鑑といえる。

 小野社長を始め、三洋信販社員の皆さんは、本当に“お金”が大好きなんですネ。恐れ入りました。
(つづく)

 
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