事件の根底には悪しき建設慣習
お安くしますわよ(…原価ゼロですから)
 ビジネスの世界では、何事に於いても欧米並の契約社会となった今日。しかし今も尚、丼勘定・口約束といったある意味“日本的”とも言うべき気質が罷り通っているのが、建設業界である。

 それでも、任された現場を誇りをもって支える職人らと、其に応える施主との信頼関係は強固なものであり、四角四面の契約事を交わさずとも、互いに信頼し合っている以上、その関係が破綻することが無いのが建設業界特有の美徳なのである。

 だが、未曾有の不況が禍してなのか人心が土台となる商業道徳や先達から受け継がれてきた美徳などはもはや形骸化し、何よりも自己利益を優先する風潮が罷り通っているのが悲しいかな建設業界の現状なのだ。

 其ばかりか、現場の信頼関係を逆手に取り、半ば計画的に仲間を騙す悪党が数多くいるというのだから、一昔前には想像できなかった程の荒廃ぶりである。

 兎に角、これ等の悪行が罷り通る要因こそが、相も変らぬ建設業界特有の契約様式によるものである事は確かなようだ。

 一般的にも、戸建てやマンションといった物件規模に関係なく、その完成に至るまでの工程には様々な作業が必要とされる。

 だからといって、建設に必要不可欠な作業の専門職を、常時自前で抱えているような業者は、大手も含めまず無いに等しい。

 多くの建設業者は、施主からの注文を受け、それに必要な業者や人材をその都度用意しては、現場に送り出すのである。

 即ち“元請け”となる業者に必要なものは、確たる技術力に裏づけされた「施行能力」ではなく、現場に必要な業者を確実に招集出来るかの「調整能力」に長けているかが必要となってくるのだ。

 
  なれあい取引に悪人参入の余地
セボンの山崎社長
 建設会社の看板を掲げていながら、現場で釘の一本も打つことなく、施主からの工事代金と下請けに回す支払い金の差額である“さや”を抜くことを生業としているのが“元請け”の正体であり、これを世間では“ピンハネ”とも呼ぶ。

 よって施主が契約を交わす建設業者は、自ら建設に従事するのではなく“元請け”の立場から、工事の大部分若しくは全部を“下請け”に投げるのである。

 なかには“下請け”が更に投げることもあり、所謂“孫請け”業者が実質的な請負業者になるケースも決して珍しいことではない。

 こうなると、施主と実質的請負業者の間には、何の契約も保障もないままに、工事だけが進められていく事になる訳で、其こそ希薄になった“信頼関係”に、現場従事者は縋(すが)るしかないのである。 

 こういった曖昧な現状に付け込み、弱者を食い物にして肥えようとする悪党が建設業界では後を絶たないというから、何とも嘆かわしい。

 さて、先達て本紙に舞い込んだ案件だが、これが現状の建設業界が抱える問題点を多く含んでいるので、実に興味深い。

 その内容は業者への代金未払いといった、よく有る現場のいざこざなのだが、事はそう単純なものではない。

 この問題の現場を仕切っていたのは、やはり“孫請け”業者であるが、資材購入に至るまで施行の殆どを請け負う、典型的な丸投げ物件であった。

 
  柴山建洋建設(倒産屋?)登場

 事の発端は、代金決算を物件引渡し日と同日に設定していたにも拘らず、その2日前になって“元請け”業者が狙いを定めたかのように破産したことから始まる。

 何やら計画倒産の匂いが漂うのだが、加えて、この突発的な破産のウラでは、施主自らも絡んでいたとの話も浮上するなど、問題はどんどん複雑化していくのだ。

 この何とも都合のいいタイミングで、見事な破産?に成功したのが、柴山建洋建設株式会社(代表=柴山健一)なのだが、やはりというべきか同社及び経営者には、胡散臭い噂が付いてまわっていた。

 特に、代表の柴山健一には、僅か3〜4年前にも自ら代表を務めていた柴山建設株式会社を倒産させていた“前科”があった。

 言うなれば、柴山健一は破産・倒産を熟知している“プロ”だったのだ。

 次々と会社を倒産させては、債権者を窮地に陥れてきた柴山健一は、今回の破産手続き後、混乱している債権者を尻目にその姿を消した。

 多分、4年も前に競売によって第三者に渡ってからも居座り続ける豪邸(町田市つくし野1-25-4)で、来る債権者集会に向けて“ウソ泣き”の練習にでも励んでいるのだろう。

 破産を繰り返しては借金を帳消しにし、決して丸裸にはならない狡猾さ。

 更に競売後にも居座り続ける図々しさを兼備える柴山健一ならば、噂にあがる隠し財産の存在も、いっそう真実味を帯びてくる。

 
 倒産会社挟めば支払い義務ナシ!

 それにしても大した生命力である。まるで台所の片隅で黒光りするアイツのようである。

 ところで、ここで大きな疑問が持ち上がる。

 今回の柴山建洋建設の破産を、施主である不動産会社のセボン株式会社(代表=山崎喜久男)は事前に見抜けなかったのだろうか、との点だ。

 本紙の取材に対しセボンの顧問弁護士は「破産の知らせは突然のことであり非常に困惑している」との返答であった。

 しかし、これを「そうですか」とは、素直に聞く訳にはいかないのだ。

 何故なら、セボンは柴山建洋建設の財務状況を、誰よりも詳細に知り得る立場にあったからだ。

 柴山の仕事はその7割をセボンからの受注が占めていたというから、もはや専属といっても何ら差し障り無いだろう。

 しかも、数千万円もの融資を実行していた事実を踏まえれば、両者の関係がどれほど“密”なものであったかの証左ともいえる。

 それ程の関係であったにも拘らず「破産は寝耳に水だ」とは、よくもまあ言えたものである。

 万々が一、これが本当であれば、セボンは救いようのない“マヌケ企業”であり、破産する迄柴山を引っ張り続けた責任を取って、全ての債務を肩代わりすべきだろう。

 
 セボン成長のノウハウ それは「孫請け殺し」
世田谷区赤堤の現場。完成させたが代金はもらえず
 この件で最も被害が大きかった孫請け業者の話によれば、支払いの遅滞はもとより、構造的欠陥から発生した施行仕様の変更等も重なり、現場は常に混乱していたらしいのだ。

 業者はその都度セボンには相談していたらしいが、何の解決にも至らなかったらしい。

 その上、欠陥箇所の修復に伴う新たな追加工事については、業者がセボンとの直契約を望むが「柴山を通さなければ駄目だ」の一点張りで、結局はこの追加分迄も業者が背負わされてしまったのだ。

 もしこの時、セボンが孫請け業者の要望を聞き入れていれば、業者はこの代金だけでも手にして最終的な被害は軽減出来たはずだ。

 逆にセボンにしてみれば、この追加分を孫請け業者と契約せずに、柴山を元請けにしていたおかげで、工事代金を貸付金とで相殺することが可能となったのだ。

 このセボンの行動を破産を見越してのものと考えるのならば、柴山との契約に固執した理由に繋がるし、計画倒産の一翼を担ったことにもなる。

 一方、これが単なる偶然だと言い張るなら、セボンは“マヌケ企業”でありながらも、とっても運の強い企業ともいえる。 

 現在セボンは、柴山への貸付残金がある以上、自社も被害にあった債権者だと主張し、6月9日の債権者集会(東京地裁)に向けて準備中とのことだ。

 ただし、他の債権者がセボンを同じ被害者として見てくれるかは、ちょっと無理のようである。

 せめて、債権者集会に本気で望むであろう本物の債権者の邪魔だけは、決してしないように!

 セボンさんよろしくね。

(つづく)

 
トップページ悪質商法(悪徳企業)一覧
©2005 敬天新聞社
info@keiten.net