自己利益の追求のみ

 本紙が推し進める「国士啓蒙運動」の一つに、毎週水曜日(夕方5時〜7時)新橋駅前SL広場で行なっている街頭演説会がある。この会に永年に亘り足を運んで下さる方々が多数いらっしゃる。今年で6年目となるS氏(69歳)もまたそのお一人である。

 先頃、そのS氏から本紙編集部宛に一通の封書が寄せられた。開封してみるとギッシリと埋められた原稿用紙が約20枚程入っている。その中身は、今プロ野球界を根底から揺るがす程の大騒動にまで発展している「オリックス・近鉄の合併問題」を批判する内容の投稿だった。

 本紙としてもS氏の意見に共感できる点も多々あることから、今回その全文を掲載することとした。以下がその投稿であるが、読者諸兄も真摯な気持ちでお読み頂きたい。


「たかが宮内が…」
―「合併を1年延ばせと言うのか。延ばせば、30億円の損失が出る。30億円を、選手会が負担してくれるなら話は別だが…」と、ムキになって叫ぶ オリックス球団オーナー=宮内義彦氏(オリックス会長)をニュース番組で見掛けた。

 まるで子供が駄々をこねているようだ。正にエゴの塊といったところ。「大企業の経営トップには見えない」というのが、大方の印象ではなかろうか。

 スポーツチーム同士の合併は、断じて認める訳にはいかない。こんなこと、国民の3人〜5人に1人くらいの割合(人口の20〜30%)で、反対の声が上がらなければおかしい。民主主義国家である以上、そうあって欲しい。況してや球団のオーナーには、尚更その自覚が無いといけない。

 宮内氏のような知的タイプの経営者なら、こんな間違いなど起こして欲しくなかった。それだけに、テレビでの喚きぶりには些かガッカリだ。

 8月4日付「日刊ゲンダイ」の40ページに、“オリ・近合併の全真相”と題された記事が掲載されていた。両球団が合併に至った経緯が事細かに記されている。プロ野球選手諸兄には是非ともこの記事に目を通して貰いたい。

 宮内オリックスは、余りにも自己の利益追求にのみ傾注し、プロ野球チームとしての純粋性が欠如している。前巨人軍オーナー=渡辺恒雄氏も、「プロスポーツチーム同士の合併は不当である」ことなど深く考えずに、合併に同調してしまった。

 著名な有力企業K社は、社内にプロジェクトチームを設け、買収を前向きに検討していたという。

 近鉄がK社に買収されてしまえば、チーム数を減らし一リーグ制へ移行させるという宮内の野望も、泡と消えてしまう。そこで近鉄を合併に引きずり込んで、「チーム減らし」を画策したのであろう。

 それにしても、オリックス球団の成績は、余りにも不甲斐ない。9月8日現在で、パ・リーグ5位の近鉄とのゲーム差が8.5、首位ダイエーとの差に至っては26ゲームも開いている。努力が足りないことは明らか。こんな惨めな現状から、チームを向上させるために近鉄を利用するつもりなのか。恥ずかしいと思わないのだろうか。

 
 宮内という男の歩み
「たかが古田が…」
 前述の日刊ゲンダイ8月4日号には、更に驚くべき内容が記されていた。それは以下の通り。

「宮内オーナーの狙いは合併後の新球団を転売することです。将来的に高値で売るためにも、既存のパではなく、巨人戦が組める一リーグ制にして球団の付加価値を高める必要がある。近鉄をK社に買収されることは、何としても避けたかった筈ですよ。K社による買収を阻止するため、オリックスが今回の合併をリークしたとも囁かれているほどです(球団関係者)」。

 これが事実だとしたら、近鉄は完璧に宮内に利用されていることになる。気の毒なのは、近鉄日本鉄道の株主達ということになる。

 マスコミ各社は、その辺をもう少し掘り下げてみるべきではないのか。

 話は変わるが、宮内という人物の歩みについて少しだけ調べてみた。

 1980年(昭和55年)に社長に就任してからというもの、乗っ取りで子会社化した企業の数は、新設した企業の数よりも圧倒的に多いらしい。買収されて会社を追い出された役員や幹部社員などの人材は、星の数にも勝るという専らの噂だ。

 要するに、宮内氏は他人(個人や法人を問わず)を利用しまくって(踏み台にして)、今の地位を築き上げたことになる。決して、宮内氏の過去を穿り返すのが目的ではない。今回の合併という不当行為が、今まで彼が歩んできた「傍若無人」という名のレールの延長線にあるということが問題なのだ。過去の「手口」を調べることが、今後多くの個人や法人が宮内の犠牲になる(踏み台にされる)ことを防ぐ上でも大いに役立つと思えるからだ。

 
 問題の本質を見誤るな
「たかがナベツネが…」
 民主主義を標榜する欧米諸国に於いては、企業経営のための合併はあっても、スポーツチーム同士の合併などはあり得ない。何故ならば、「フェア―プレー精神」を大切にする彼らにとって、合併してチーム力を向上させるなどということは、アンフェアー以外の何物でもないからだ。

 野球チーム同士の合併。こんなアンフェアーな行為を平気で仕掛ける人間は、傍若無人な一部の日本人だけであると言えよう。 

 オリ・近の合併に対し、日本中が企業経営のための合併と混同している。また他の10球団の首脳達には、スポーツ精神が欠如している。合併をいとも簡単に承認してしまったことが、その良い証拠。マスコミ各社も、利害意識やシガラミが常に頭にある上に、スタンドプレー意識が強い。公正かつ公平な使命感など持ち合わせてもいないので、スポーツチームの合併の恐ろしさに気付いていない。ヤクルト古田選手が会長を務める「労働組合・プロ野球選手会」も、選手の失業や年俸のダウンといった側面からの合併反対を唱えるばかりで、物事の本質を捉えてはいない。

 関係者の中に、スポーツ界の将来を懸念する声が聞こえてこないこと自体、不思議でならない。

 スポーツチーム同士の合併は、他力本願の行為であり、最も安易なチームの強化方法である。このことが当たり前のように行なわれ始めれば、厳しいトレーニングでチーム力の向上を図ろうとする者など皆無となろう。そんな雰囲気がプロスポーツ界に蔓延すること自体が、最も恐ろしいことなのである。日本スポーツ界全体の弱体化を招くことが自明の理であるからだ。

 合併したチームは、他チームと比較して一挙に2倍近い戦力を有するようになる。リーグ戦を構成する2位と3位のチームが合併したら、優勝の可能性だって極めて高くなってくる。結果、プロスポーツ界に不公平な事態を招くことになる筈だ。そんなことが行なわれても良いのか。これを一種の犯罪と言わずして何と言えよう。

 今回、オリックスと近鉄両球団の合併が実現してしまえば、もう歯止めはきかないのだ―


 以上がS氏から寄せられた原稿の全てである。

 本紙としても、スポーツマン精神を大切にするS氏の考えに賛成だ。氏がその原稿の中で述べているように、企業経営のためにスタートした筈のオリックスと近鉄の合併が、日本スポーツ界の弱体化の呼び水となる危険性は十分に考えられるのである。

 
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