▼武道家・田中光四郎先生の「真説・武侠一代ケタ外れ」の出版記念会が九段会館であった。私も発起人の一人として名を連ねているので出席したが、当日は水曜なので新橋での定例街宣がある日だ。終ってから駆けつけたが、「仕事着」のままである。丁度、来賓の挨拶の途中だったが、私が「仕事着」のまま現れたので、恐らく皆ビックリしたことだろう。

 一瞬私の周りに空間が出来た。だが、田中先生のファンの集いみたいな会だから、関係者は皆、武道に造詣の深い方ばかりである。1人や2人、ならず者や変り者が闖入した位では誰も驚かない。乾杯が終ると田中先生が真っ先に声を掛けて下さり、和気藹々のパーティであった。

 酒と霞を食って生きてる田中先生が仕事をしないのは有名な話だが、こういう浪人道的生き方をしている人間は豊かな日本になってから殆どいなくなった。ただ今のように景気が悪くなると浪人道も大変である。そこで仲間・有志が集まっての支援会である。やはりこの人の人望なのだろう。出席者が暖かい。それにいつも思うのだが、こういう会を主催する時、必ず武術の創始者とかその子孫を招待される。先輩・先人・師を大切にするという武道の基本、日本人の失いつつあるものをしっかり実践する事で周りを暖かくしているのである。

 この日は不二流体術の創始者、5・15事件の実行者であった古賀不二人先生と田中先生を引き合わせた福岡の八木不動先生がわざわざ福岡から出席されていたし、日本拳法の創始者森良之祐先生も出席されていた。そういう武道の基礎を作った方々を大切にされるのである。田中先生の現在の肩書きは「不二流体術二代目宗家・武道家田中光四郎」である。

 毎年5月15日、古賀不二人先生の精神を忘れないよう、靖国神社能楽堂で奉納武道を実演されている。1年のうち半分は海外へ飛び、アフガニスタン、イラク、フィリピンと弱い国への支援をされている。強きを挫き、弱きを助ける、というのが先生の生き方なのだろう。

 
▼劇画家村上和彦先生の御令嬢(次女)の結婚式に出席した。村上先生の御令嬢だから、出席者の顔ぶれが華やかである。芸能界からは、当然ながら先生の作品が侠客道一筋であるから縁のある本物も多数出席。350席のうち300席ぐらいが新婦側応援団で新郎側もビックリしたのではなかろうか。

 媒酌人無しの披露宴だったので、司会者が2人を紹介。その後、新郎側から1人、新婦側から1人主賓あいさつがあり、そして村上先生の兄弟分にあたる、空手バカ一代の真樹日佐夫先生の挨拶があったのは順当だったが、突然来賓祝辞の挨拶に俺が指名された。日頃は厚顔の俺もビックリ。

 来賓挨拶の順番からいえば30番目ぐらいの立場でいたから、まさか指名されるとは思ってもいないし、それより3日前に伊東温泉のカラオケ大会で一緒に審査員をやり、同じテーブルで食事をした時も、それより1週間前の南有馬町少年柔道部40周年にはタレントを連れて来町して頂き、3日間、寝食を共にした時も来賓挨拶の話は一言も頼まれていなかった。

 これだけの主役級がいる中で何で俺なの?とブツブツ言いながら、マイクの前に立って俺が話ができるのは、結婚式に合う合わぬも「今日勝つ道」の話しかない。厳しく激しく面白くを売りにしている敬天新聞のモットーが何処まで理解されたかわからないが、続いて出てきた重鎮、松崎忠男先生が乾杯の音頭でうまくまとめてくれたので事無きを得た。

 最近は弱い父、泣き虫の父が多く、娘の前でおいおい泣いたり自然体を見せる父がいい父だと思われている(勘違い)。がんこ親爺は退職時に熟年離婚として追い出されるのである。

 村上先生は、強い父である。結婚式の2週間前、嫁に行く娘さんと食事をする日があって、偶然私も同席させて頂いた。奥様ともこの日初めて会ったのだが、話を聞いていると先生は若い時、殆ど家に帰らず、母子家庭状態だったそうである。それでも娘さんはお嬢さん学校で有名な白百合女子大学の大学院を出て、現在白百合学園の小学校の先生である。子供の頃は父親のいない淋しさを感じたことはあったが、恨んだことは一度もないという。奥様も2人の娘さんも本当に仲がよく、今の先生を尊敬してるという。

 最近の結婚式は子供達が中心になって「楽しくやろう」がテーマで、苦労して育てた親に感謝する気持ちが少なくなってきている。この披露宴では、子供を育てたのは奥さんだがその奥さんが旦那様に感謝し、その旦那様が妻と娘に対して長い間の家族不孝を詫びたようなきらびやかさが宴内一杯に広がって、私も岡崎二朗さんも何度も涙した。

 最後に挨拶した先生は、村上流媒酌人口上で最後まで強い父を演じ涙は見せなかった。流石である。

 また2次会では大役を終え、ほっとしたのだろう、めずらしく唄いまくりみんなに祝福を受けていた。
 男になりたい
 男で生きたい
 男で死にたい
 村上和彦は男だった。

 
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