一大勢力「洋々会」
菅野理事長
 本紙に掛かってきた1本の電話――これが全ての始まりだった。

 「敬天さんでは大学の闇を暴いてますが、私が卒業した東洋大学にも、信じられないような内情があります。是非取材して下さい」

 話は平成12年に遡る。

 この年の11月に、東洋大学では理事長選挙が行なわれ、新理事長に菅野卓雄氏が就任した。その4年後の昨年4月に、前理事長だった塩ジイこと、塩川正十郎元衆院議員の任期が満了となり、同氏は新たに総長に就任した。

 この2つの人事を強引に推し進めた“黒幕”が存在し、そこには、この黒幕の“大学支配”という強烈な意志が浮かび上がってくるという。

 「菅野氏はその年の7月に行なわれた学長選に敗れた人物です。そんな菅野氏が、いわば横滑り的に理事長に就いたのだから、フツーではないでしょう」

 と、ある東洋大学OBは疑問を呈し、その時の学長選の迷走ぶりを振り返る。

 「特定の勢力が異常な迄に選挙に介入した。例えばこうです。職員の部課長クラスを動員して、勤務時間中に菅野氏への投票を強制した。しかし同氏は敗れたのですが、それはこの勢力の学内支配を懸念する、良識ある多くの教職員が反発したからです」

 その勢力とは「洋々会」なる校友会の一派閥だ。校友会組織については後述するが、この「洋々会」は、20名の評議員を選ぶ代議員約170名の殆どを押さえているというのだから、その強大な勢力の程が伺える。

 この「洋々会」の頂点に立っているのが、田淵順一常務理事だという。

 「洋々会イコール田淵と考えていい。つまり、田淵は学内に於ける独裁体制を構築しようとしているのです」(同じ東洋大OB)

 先に記した塩川氏の総長就任という人事も田淵常務理事が大きく関与していると言う。

 「これまで東洋大には総長職など無かったのです。田淵常務理事が塩川の為に勝手に作ったポストです」(同)

 因みに田淵常務理事は塩川氏を“オヤジ”と呼んで憚らず、衆院議員(当時)塩川氏のために、東洋大学に、政治資金を集める組織「塩川白山会」を立ち上げたという。

 田淵常務理事が強引にはめ込んだ理事長=菅野氏、それに新設された総長職の椅子に座った塩川氏――共に田淵常務理事とは深くて強い関係にある人脈だ。

 前出の東洋大OBの視点で見れば、田淵常務理事が“陰の振付師”として、自由自在に操れる人材をトップのポストに据えた、と映るのである。即ち、田淵常務理事の“学内支配体制”という訳である。

 
 東洋大史上最大の汚点
田淵常務理事

 突然浮上したこの田淵常務理事、実は、冒頭の電話は「東洋大内部の腐敗は目に余る。その元凶が田淵常務理事です。とにかく、田淵は“利権漁り”に終始している」と、続いたのである。

 問題の田淵氏の過去を調べてみると、東洋大学の歴史で最大級の“汚点”として刻むべき事件の“主役”を努めていた事が解った。

 平成3年に発覚した相撲部の不正推薦入学事件――これが問題のスキャンダルだ。

 内容を簡単に述べると、同大学の相撲部監督が都内の私立高校(相撲部監督)に依頼し、生徒の高校時代の戦歴を捏造し、運動部優秀選手推薦制度を使って入学させたというものだ。

 その時の一方の当事者である、東洋大学相撲部監督が田淵氏(当時は理事)その人だった。その後、同事件は評議員の一人が、田淵常務理事らを警視庁に告発する、といった事件に発展したが――。

 前出のOBが記憶の糸を手繰る。

 「確かに告発する手続きを取りました。しかしウヤムヤで終ったと思います。当の田淵は一時期相撲部の監督を辞め、後釜に息のかかった正木を据え、その後、半年ぐらいして再び田淵が監督に戻りました」

 田淵氏の所業は有印私文書偽造、同行使罪という歴とした犯罪だ。しかも、この不正推薦入学事件において、田淵氏は相手の高校の相撲部監督に「私が推薦すれば何とでもなる、と持ちかけた」(=当時を知る関係者)というのだから、そこには何らかの供与があったと考えるのが自然だ。

 ところが田淵氏は、一時は相撲部監督を離れたものの、すぐに復帰し、今尚、そのポストに居座っているというのだから、東洋大学のモラルハザードは、ここに極まる。

 しかしそれは、学内での田淵氏の権力が、それほど強大である事の裏返しかもしれない。先の「私が推薦すれば何とでもなる」という、田淵氏の自信たっぷりな台詞は象徴的だ。

 同大相撲部の内情に詳しいA氏(同大学OB)は、別の位相で言葉をつなぐ。

「あんな不祥事を起こしたのに、彼は今も相撲部の監督をしています。田淵は相撲部を私物化し、彼の幾つかある“利権”の一つとしているのです」

 A氏の話を続ける。

「田淵氏の“実力”をもってすれば理事長になれる筈です。だが、彼にとっては現在のポストの方が居心地がいい。田淵氏は管財部門をガッチリ握っているので、思うままに出来るのです。陰の理事長として、この部門を手中にしている事の方が、どれだけ“メリット”があるのか」

 
 必殺技!「お手盛り」

 A氏が指摘した田淵常務理事の代表的な利権の一つがこれだ。

「かつて、大学のメンテナンスを一手に引き受けていたのが、田淵が経営する『田淵産業株式会社』だった。発注者が田淵ならば、受注者も田淵という図式。これでは流石にまずい、と指摘されたのか、今ではそれを『株式会社大学サービス』が請負っていますが、この会社は完全なダミー会社です」

 理事長になりたくない男――その底流にあるのは、利権という地下水脈だというのだ。

 全国に60の支部を持つ「校友会」は東洋大学卒業生約22万人の親睦団体で、176名の代議員がいる。この代議員が20名の評議員を選ぶ“有権者”となる。

 前段で触れたが、田淵常務理事の力の源泉は、この代議員を掌握しているからだという。そして、その核となるのが「洋々会」なのである。

 前出とは別のOBが打ち明ける。

 「田淵は洋々会に入って立候補すれば、評議員の当選は確実だ、と多くの代議員に吹聴し、勢力の拡大に精を出しているのです。そんなわけで、代議員の七割近くは同会の傘下というのが実態です」

 「洋々会」による評議員当選への“保証”――これはあながち虚言ではない。現実に「洋々会」は、他派の立候補者が登場しないよう、あらゆる手段を駆使してグループからの候補者を当選に導くからだ。

 勢い評議員も「洋々会」によって占領される。

 即ち、こうした校友会の“いびつ”な構図が、田淵常務理事が学内で権勢を欲しい侭にしている源泉なのである。

 この為の田淵常務理事の日常活動は“スゴイ”といえば凄いし“特異”といえば特異だ。

 このOBが「田淵は代議員の支部総会に出向き、その存在感を示すのです」と指摘して、現実に宮崎県支部で起こった出来事を呆れ顔で話す。

 「本来ならば、支部の総会には大学の総務部長が行きます。ところが田淵常務理事は、事前に宮崎支部に電話して『俺が行くから呼んでくれ』と根回ししていたのです。それで宮崎支部から『田淵常務理事が来るので』と、大学側に断りの申し入れがあった。地方の支部の場合、情報が不足な事もあり、『大学トップの権力者が……』となるのは必然です」

 こうして「洋々会」の勢力を拡大していくのだ。

 因みに、田淵常務理事が地方支部の代議員大会に出向く際には、東京は文明堂のカステラなど、必ず土産を持って行くという。こうした日常活動は、正に国会議員さながらだ。長きに渡り塩川前代議士の背中を見てきた、田淵常務理事だからこその業かも知れない。

 ところで、田淵常務理事について取材を進めていくと、校友会の城北支部(東京)のU氏に辿り着いた。同氏は校友会改革の提言をし続けている一方、田淵常務理事をよく知る人物だ。

 次回はこのU氏の証言を軸にレポートする。
(以下次号)

 
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