塩爺の威を借る | ||
「白山キャンパスに塩川の胸像を建てる、と聞いた時には、我が耳を疑わずにはいられなかった。それより先にやるべき事があるじゃないか、と思った」 “乱心”気味の殿とは、東洋大学の“影の理事長”の異名を取る田淵常務理事の事だ。そして塩川とは、東洋大学総長の塩川元財務大臣を指す。 この発言の主であるU氏は、校友会改革や大学の執行部の刷新を訴え続けている、改革の急先鋒として知られる人物だ。 「だいぶ前ですが、私の行動を抑えようとある人物を通し、田淵は裏社会の人脈を動かそうとした。ところが、金がかかると聞いた途端に断ってしまった。困ったのは中に入った人で、大変な目に遭ったそうです。 で、次に打った手は警察です。こちらのルートは塩川だと思います。彼は国家公安委員長を歴任していますから。それで私の所に公安課長が来ました。が、私の話を聞いたら帰って行きました。それはそうでしょう。何も犯罪行為を犯している訳ではないのだから」 さてU氏が指摘する「先にやるべき事」については後述するとして同氏は田淵氏の心象をこう読み取る。 「大学内で権力を欲しい侭にしている田淵は、自分の考えが意の侭になる、と思っているんです。で、田淵は塩川の胸像を作る事によって、職員等の関係者にその偶像を植え付け、自分はその直系だと言う事をアピールし、権力の維持を図りたいのでしょう」 田淵氏と塩川氏の関係は強くて深い。田淵氏は、塩川氏を“オヤジ”と呼び、塩川氏の為に「総長」なる新ポストを用意したのも田淵氏だと言う。こうした話を総合すると、田淵氏は塩川正十郎と言う「力」を笠に大学内での権力を増長させ続けていると言える。 |
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田淵は東奔西走 | ||
「何やら“意気消沈”気味なのです。会合では以前より覇気のない印象を受けましたし、洋々会においても“孤独”な立場になっているという話も伝わってきます。また理事会でも、同氏の行状を問題視していると聞いています」(某OB) U氏の目から見れば、最近の田淵氏の行動は、自身の疑惑から関心を逸らす事に腐心しているかの様に映るという。 「田淵は最近になって、自分が提唱している文京区内の司法研修用地の購入、その利用法等を盛んに喧伝している。と同時に、これまでになく校友会の支部総会巡りを展開している」 この話を裏付ける様に、田淵氏の権力の原泉と言われる校友会「洋々会」の会報(平成16年9月21日発行)の一面で“東洋大学の新しい飛躍、白山に新キャンパス取得へ”と言う大見出しの記事を掲載している。 冒頭のU氏の証言にもあった「先にやるべき事」こそ、田淵氏が関心を遠ざけようとしている「自身を覆う疑惑」を明らかにする事だ、と指摘するのである。 |
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いかにもダミー | ||
「その内の大学サービスの主業務は、大学建物のメンテナンス事業です。元々、メンテは田淵産業が一手に請負っていた。これは田淵常務理事が経営する会社です。その関係が余りにも露骨だとして大学サービスなる会社を設立。その後、これがメンテ等を行う事になった」(ある東洋大OB) 東洋大学に関わる事業や物品購入等を発注するのは管財部。そして田淵氏は、この部署までをも牛耳っていると言う。 つまり、これまではこういうシステムだった。 田淵氏は右手のポケットから仕事を出し左手のポケットにその代金を入れる、と。即ち、大学が仕事を出せば出す程、田淵氏が経営する田淵産業に入る金が巨大化して行く。 それが数年前から大学サービスに取って代った。しかし田淵氏の利権の構図は何ら変っていないという。 「大学サービスの下請けは田淵産業です。名目上、大学サービスが受注しているだけですよ」(前同) つまり同社は大学と田淵産業の取引の間に入る“トンネル会社”と見ると分り易い。 一方のキャンパスサービス。名称が先の大学サービスに似ているが、その会社謄本を見ると事業目的も同じような内容だ。その上役員も少なからず重なり合っているのだから両社は双子のような会社との印象だ。 「キャンパスサービスは、大学を退職した功労職員の受け皿として設立された会社。ところが実態は田淵の息の掛かった職員の“天下り”先です。歴代の管財部の部長が同社の社長に就任している事が、何よりもそれを物語っています。早い話、田淵の会社の様なもので、本社の所在地は田淵産業と一緒です」(前出の大学関係者) 一口に大学に関連する事業といっても、このメンテナンスも含め多岐に亘る。早い話、莫大な金が動き、利権が生まれる。 U氏が推測を交え話す。 「別に、彼(田淵氏)が大学に関する全ての利権に関わっている訳ではありませんが、“独占的”に握っている物が結構ある訳です。彼が理事長の座に目を向けない――言い換えると、現在の常務理事に居座る、その理由は正にそこにあるのです。つまり利権の維持、確保なんです」 |
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元通産大臣登場 | ||
前段で、田淵氏が塩川氏といかに親密であるかを述べたが、田淵氏の人脈にはもう1人、忘れてはならない政治家がいる。 「理事長になりたくない田淵は、彼を次期理事長に据えよう、と画策している節が見受けられる」 というからこの政治家に付いても触れておく。 それは深谷隆志元代議士だ。深谷氏と言えば現在落選中ながら通産大臣を務めた大物。 「深谷は昨年4月、東洋大学大学院の客員教授に就任した。これは塩川の総長就任と同様、田淵の鶴の一声で決まった様なもの。深谷の選挙区が“東洋大のある文京区”と言う関係なのか田淵とは非常に親しい間柄です。前回の選挙では相撲部の学生がポスター貼りを手伝ったり、地方に住む同OB等に文京区内に住民票を移すよう要請していて、これら全ての采配を振るったのは田淵です」(同) 両者のパイプは極めて太い、と言う事が伺える。 「現理事長の任期は後一年です。田淵はその後釜として深谷と考えているのではないですか。今後、東洋大学には大きな“開発利権”が発生します。現在の利権は勿論ですが、それを見据えて、田淵は理事長にはなりたくないのです」(同) 深谷元代議士の客員教授就任は一年後の理事長と言う田淵氏が打った布石だ、と推測を広げる。そして、それもこれも底流にあるのは利権と言うのだ。 一般的に見れば荒唐無稽な推測かもしれないが、取材をした複数のOBが「田淵ならば…」と、共通に語るのだった。 そして、大学と言う極めて狭い世界でやりたい放題やってきた田淵氏だからこそ、世間の常識との開きがある、と指摘する。 |
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田淵基金 2億円 | ||
金が集まると欲望が蠢く―― 「東洋大学の裏には田淵の豪邸があります。また田淵は千葉県の勝浦には別荘も保有しています」(大学関係者) その別荘のすぐ側のゴルフ場で女性とゴルフに興じている田淵氏の姿が度々、目撃されていると言う。 「その一人が大学の秘書課に勤めている女性です。彼女は同じ秘書課に、実に18年も勤務していると言う“特異”な存在。普通は同じ部署での勤務は長くても5年です」(同) これまで述べた様に田淵氏は田淵産業と言う“超優良企業”を経営しているのだから、こんな日常が決して分不相応とは言わない。 それどころか、田淵氏は大学の常務理事としての報酬を一切受け取っていないと言うのだから驚く。 「塩川は、理事長時代には報酬を断っていた。田淵はこの塩川に追従し、言わば“殉じる”形を取っているのです。実は、これには問題があるのです。大学側は返上された金を受け取ることが出来ないのです。で、田淵基金などと称しているようですが、その金は宙に浮いている格好なんです。見方によれば、田淵が大学に貯金しているようなものですよ」(同) その積もり積もった資金は、実に2億円にも上ると言う。ともあれ、報酬の返上とは、誠に美談仕立ての話だが、その裏には田淵氏ならではの深謀遠慮が透けて見えると言う。 「田淵は、地方の校友会支部に行くと、兎に角この事を吹聴するのです。それを聞いた面々は、田淵をして『大学の為にそこまでやるとは』と感激し、田淵になびく訳です。彼一流のパフォーマンス。こうして田淵は校友会を押さえて行くのです。何しろ、彼の力の原泉が校友会ですから」 “陰謀”に長けた田淵常務理事、恐るべし。 |
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