国際治験開発とアイロムの営業法…株価下落は続くか?

2008/12/07

(株)アイロムホールディングスの株価が今年の10月と比べてさえ6割以上の下落。上場時から比べたらもう目が回る、頭がクラクラしてくる程の下落基調である。アイロム創業者の森豊隆氏のみならず、アイロムの株主から下請さんまでドンヨリした気分が拭えないのは、もう不景気のせいとは言えない。
 ま、一番損をしたと思っているのはアイロム上場時からずっと株主であり株価の下落を横目にアイロム株を抱えたままあわあわとうろたえるしかない森豊隆氏ら創業者や上場時高値づかみホルダーなんだろうけど。

 アイロムと言ったら医療分野のニュービジネスであるSMO(Site Management Organization:治験施設支援機関)ビジネス、すなわち治験コーディネータビジネスの魁である。
 アイロムの治験コーディネータ(SMO)ビジネスとは、かつては製薬会社と医者の聖域だった新薬の治験業務の一部つまり臨床試験部分を、医療機関の委託を受けた第3者であるアイロムが行い、製薬会社が新しく開発した薬を新薬として認可させるため服用時の安全性・有効性を証明するサポート業務だ。

 アイロムの治験コーディネーターは臨床試験場面にトータルで参加する事が商売である。
 具体的には、治験患者の口入れから、患者の同意文書の作成をする代書屋業務や、治験期間中の患者の管理などの雑務で医者の面倒を代行するのがアイロムの商売。
 アイロム創業者・森豊隆氏のモットーは自ら薬剤師として患者と接した経験から来る「患者の立場からの医療」づくりというもの。
 しかしここの所、森氏が初心を忘れて金儲けにばかり走り過ぎマネーゲームにはまりアイロムに多大な損害を与えているのではないか?と森氏の行為を憂慮する声が多い。

 アイロムのような治験コーディネータビジネスは、簡単に分類するとグッドウィルやフルキャストのような「人材斡旋商売の新薬試験患者バージョン」のようなものだ。
 このところ批判の多い人材派遣業だが、左翼労働組合の主張を鵜呑みに無くしてはならない、現代ビジネス社会の中の貴重な1ジャンルである。

 人材斡旋商売というものは、労働組合でボロ儲けする為に騒いでいる奴等の言うような「悪行」ではない。
 グッドウィルやフルキャストの商売も、文句をつけて無くなってしまった、これから先の方が困る人が必ず出てくる(働く側にこそ)大変重要な商売だった。
 同じようにアイロムのような治験コーディネータと言った製薬会社や病院御用達の人材面の何でも屋さんも同じく必要不可欠な存在なのである。
 なのになぜ、グッドウィルやフルキャストが左翼労働組合ごときの抗議ごときで潰され、アイロムも売上株価共に創業時から比べたら目も当てられない位の惨状になってしまったかというと、これ、ただ一つ「仲介屋が儲け過ぎた」という事に尽きると思う。

 いてくれれば便利な仲介屋やブローカー、周旋屋といった商売は、何の業界にも付き物だ。
 仲介屋商売は需給の間に入って、薄く広く儲け「抜き過ぎ」は禁物なのであり、不動産商売だって、インターネット情報の発達した昨今、3%の仲介手数料をダンピングして1%にしてくれたりするのだ。不景気だから支払う方は財布の紐を固くする。
 なのに、人材商売をやっている人達は、なんとなく需要が非常に大きいジャンルであったため「こんくらい抜いちゃおか?」ってのがエスカレートし過ぎたのだろう。
 人材派遣商売も厳しくなってしまったが、治験商売もノウハウが確立してくると製薬会社の側としても「これだけ仲介料抜かれてるなら自分とこで治験やった方が損が無い!」という発想になり、治験コーディネータ離れが起るのも自然の流れ。

 今、製薬会社の多くが、日本と欧米やアジアで臨床試験を同時に進める国際共同治験の実施を進めている。治験は多くの症例を集めるのに時間がかかる。
 他国との共同事業となると資金も余計にかかりそうだが、国際的な開発を一発でやれば、(日本で特許とって、海外向けに、も一度特許申請してとかの手間もなくなるから)研究開発から世界へ向けての発売に至るまでのスピードは数倍の速さになるはず。
 製薬メーカー各社は複数国で同時に実施することで臨床・症例数のデータも多く取れ、新薬の開発期間を短縮出来る事で、「売出しを早く販売期間を長く販促も広範囲に」できる事で収益向上があり、それによって海外提携による投資資金の回収も早いと見込んでいるのだろう。

 そうするといくら治験コーディネータとしては大手でも、今までのように「仲介手数料貰い過ぎの『中抜き』スタイル」だけでは、アイロムは国際治験事業には参戦出来そうもない。

 アイロムの躍進ノウハウは、創業者森豊隆氏が現場で感じた日本の医療業界の慣例に拠る所が多いと思う。病院と製薬メーカーに限らず(どの業界にも在るように)医療業界には医療業界特有の癒着というものがある。病院担当者と製薬会社プロパーとの癒着は全国的に問題視されているが、癒着を信頼関係と捉える風土もある。
 今後、製薬会社の多くが国際共同治験に重きを置き始めた時、アイロムがドラスティックな海外戦略でやっていけるかどうか?
 また、国際的治験により治験業界の業務内容も刷新されると思うが、アイロムがそれについていけるかどうかが問題である。

 アイロムは現段階ではそういった海外戦略に参戦できるほどのパワーがない、というより、国内で山積みになっているトラブルが多過ぎるように思われる。
 10年前は斬新だったアイロムの治験コーディネータビジネスも今や旧態依然とした目新しくないものとなってきている。
 競合他社というより、業務を委託してくれる側の「進歩」にアイロムが追いついているのかが疑問なところだ。
 上記のように部外者の勝手な意見であるが「仲介屋は儲け過ぎてはいけない」のに、アイロムの実情はあまりに特定の病院に関わり過ぎているらしい。
 それら病院との金銭面でのトラブルが続出し過ぎており、幾つかの病院のトラブルはては万が一の倒産の時、アイロム自体も損害を被らざるを得ないほどだそう。
 例えて言えば、同じ畑で耕し過ぎ、もう何も生えてこないのに種も蒔かずに掘り返して周囲はアナだらけ、のような状態……これでは国際治験戦略どころではない。

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