徳洲会公職選挙法違反事件の終結 東京進出に敗れ神奈川制覇に向う

(敬天新聞5月号)


徳田ファミリー不在の衆院補選

徳洲会公職選挙法違反事件で徳田毅氏が議員辞職したことを受け、衆議院鹿児島二区の補選が四月十五日に公示された。投開票は同二十七日であるから、この新聞を読者が目にする頃には結果が決まっていることになる。立候補は六名であるが、自民党新人(公明党推薦)=金子万寿夫氏と、民主、維新ら四野党が推薦する元職の無所属=打越明司氏の二名による接戦が予想されている。

どちらか、若しくは他候補が当選したとしても、徳田王国から久々に誕生する徳田ファミリー外の議員となる。徳田虎雄氏から息子である徳田毅氏へと代替わり(事実上の議席禅譲)した鹿児島二区の選挙は、これまでは大いに盛り上がっていたようだが、三十一年ぶりとなる徳田の名が無い今回の選挙には、地元の興味も薄れているという。

勿論、選挙となれば徳洲会が集票組織として活発に動いていたのが、全く動きが無いというのだから当然である。それでも、自民党議席を失うわけにはいかないと、公示後には安倍首相が応援演説に駆けつけた。一方の野党も、辞職で空いた与党議席を奪おうと、野田前首相や蓮舫議員らが応援入りしたが、やはり主役不在ということで盛り上がりに欠けたという。改めて、徳田の名が隅々まで浸透した土地柄であることを再認識した。

地元からは徳田毅氏或いは徳田家からの復帰待望論の声も挙がっているようだが、徳田毅氏は辞職の会見では将来、再び政治の道を志したいと述べていたが、五年間の公民権停止によって立候補は不可能。また徳田家及び親族には他に政治家の素養をもった人物もおらず、次回選挙も不在が確定しているのが現実だ。

野党の一部からは、今回の自民党候補者は徳田毅氏が復帰するまでの留守を預かるだけの存在にすぎないと非難しているが、混沌とする政治状況を踏まえれば、五年以上の空白は「徳田王国」をもってしても安穏としている余裕はない。よく選挙は水ものというが、徳田毅氏は前回の選挙で圧倒的勝利を収めていた。違法行為で票集めをする必要があったのか、そもそもが疑問だ。

選挙活動を指揮した徳田虎雄氏(病気理由に起訴猶予)は自身の落選経験を踏まえ万全を期しての思いだったのだろうが、身内から多くの犯罪者を出したこと、結果、息子の議席を奪ったことに今となっては悔いているかもしれない。

長期の病気療養で世間ズレしたのか、身内しか信じられない人間不信が深まったのか、何れにせよ絶対君主の命令には口を挟めないという徳洲会の体制が生み出した事件であった。


徳洲会創始者・徳田虎雄氏

徳洲会グループに禊は不必要か

又、同事件を起こしたことで徳洲会は貴重なコマも同時に失ってしまった。東京都心進出の足掛りとしてバックアップしていた猪瀬直樹前東京都知事を、道連れにしてしまったことだ。事件が露呈しなければ、猪瀬前都知事が道筋を付けた東京電力病院(東京都新宿区)の売却に伴う入札に予定通り参加し、落札していた可能性がある。

そうなれば、これまで病院新設を頑なに拒んでいた東京医師会らの既得権者の壁を壊すことに繋がり、徳洲会が提唱している医療現場改革が一歩前進したかもしれない。たらればとなるが、東京電力病院が徳洲会病院として稼動したとしたら、その近隣の全く毛色の違う慶應義塾大学病院と、どのように対峙していくのか見物ではあったのだが、それもこれも全てが泡となり弾けた。

因みに、東京電力病院を落札したのは不動産大手の東京建物で、病院としては使用しない方針だという。落札額は百億円だったというが、徳洲会が入札参加していれば二十億円程の上乗せがあったかもしれない。売却益の大半は東北被災地復興支援及び原発事故の対策費用にあてられるということだから、この事件は多方面に陰を落としたといえる。

さて、国政と首都行政を巻き込み、国民都民に多大な不信感を与えた事件を起こした徳洲会。それでも、既存の病院や介護施設が何らかの行政処分を受けたという話は聞かない。事件で逮捕され有罪判決を受けたのは、選挙活動を指揮した徳田ファミリーと側近幹部の一部だった。

実際に現場で動いた多くの徳洲会グループ所属職員は、事情は聞かれはしただろうが、東京地検特捜部の的からは外れていたことから、お咎めなしに終り、事件後はそれぞれの職場で変わらず業務に就いていると思われる。

勿論、拒否が許されない指令を出して事件に関与させた職員等を、徳洲会が冷遇することはないからだ。つまりは、事件後も病院や介護施設は通常通りに機能しているということだ。現実的に、事件に関与した職員が勤務しているからといって、その施設を運営している法人に対し行政が処分を下すことは考えにくい。患者や利用者に直接の不利益が生じていないからだ。

ただし、徳洲会グループの新規設置申請等には厳格に対処する必要はある。特に、介護施設等の新規設置には自治体から多額の補助金が支給される。業務とは直接関係のない事件であろうと、徳洲会グループは組織的に犯したのであるから、事業者として不適格として少なくとも一定期間は疎外する対処が妥当といえる。

しかし、恰も事件など存在しなかったように、徳洲会を向かい入れている自治体がある。それが神奈川県である。徳洲会にとって神奈川県は東京進出を見据える橋頭堡の地であったが、東京進出が難しくなった今、今後は神奈川県を拠点としたグループの発展を模索していく気配だ。

徳田派の黒岩祐治神奈川県知事

その追い風は既に吹いている。今般、安倍内閣の成長戦略の柱である、国家戦略特区の対象地区が決定した。対象6地区のなかで最大規模となるのが、東京都・神奈川県の全部または一部プラス千葉県成田市からなる『国際ビジネス、イノベーション拠点』である。規制緩和特例措置や税制・財政上の支援措置を受けることが出来る国家戦略特区の対象地区となった神奈川県だが、既に「国際戦略総合特区」の指定も受けいている。

元より徳田虎雄氏の信望者である黒岩祐治神奈川県知事は、同特区を「開かれた医療の拠点にし、医療における『出島』のようなものにしたい」と、知事就任時に療養中の徳田虎雄氏を訪ね持論を述べていた。

そして「ぜひ徳田理事長と手を組んで、この大きなプロジェクトを進めていきたい。可能であれば、病院を徳洲会で造っていただき、そこで世界最先端の医療を行っていただきたい」と、協力を打診していた。このまま事件が沈静化・風化していけば、黒岩知事の強力な後押しで徳洲会の神奈川県での立場は今以上に磐石となるであろう。

更に強力な援軍もある。国家戦略特区の担当である甘利明内閣府特命担当大臣(神奈川県十三区)だ。神奈川県を代表する有力代議士である。その甘利大臣の公設秘書を務めた後に同県藤沢市議会議員に転じた市川和広議員は、徳洲会に阿った市策を通そうと奔走しているようだ。

徳洲会が事件の家宅捜索を受けた数日前に、藤沢市の特別養護老人ホーム整備事業にて、徳洲会グループの一つ「社会福祉法人茅徳会」(神奈川県茅ヶ崎市=塚本玲三理事長)が業者選定されていた。選定見直しが必至のなかで、鈴木恒夫藤沢市長は我関せずと、整備費補助の名目で定員(百名)一人当たり三百五十万円を藤沢市が補助として支出する予定に変更はないとしていた。

其処に加え、甘利大臣の意を汲んだ市川議員が、同整備事業に更なる別途予算を付けるが為に動いているとも聞く。因みに、同福祉法人には事件で有罪判決を受けた徳田秀子夫人が理事・評議員に就いている。事件の影響など微塵も感じさせない歓待ぶりだ。

それでも、一つ懸念材料がある。当の甘利大臣が交渉担当となっているTPP問題だ。徳田虎雄氏は以前から国益を損ねるとTPP参加と米国を毛嫌いしており、その考えは今も変わらない。

米国の圧力に屈して不利な条件を呑むともなれば、甘利大臣との関係に亀裂が生じるのは避けられない。報道で知る限り、米国の圧力は相当なもので、妥協を前提とした交渉のようだ。怒りで徳田虎雄氏の病状が悪化しなければいいが。


甘利明内閣府特命担当大臣

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