痴呆症のお婆さんを狙った地面師 失敗した上に最後は醜い仲間割れ

(敬天新聞8月号)

今時の地面師の仕事なりと顛末


地面師に狙われたお婆さんの自宅(杉並区)

嘗て、バブル時代に活躍?していた地上げ屋と言われた者達。絶対値下がりしないという土地神話を誰もが信じて疑わなかった。地上げ屋も依頼者である大手不動産や開発業者から潤沢な資金を得て、札束を積み上げて土地を買い漁っていた。

土地所有者も少し粘れば一日二日でつり上がることを知り、より多くの泡銭を得ていた。なかには、売却を頑なに拒む者に対しては小さな嫌がらせで追い出しにかかったり、仕舞いには火付けまでしていたという物騒な話もよく耳にした。

どこまで実際に有ったかは定かではないが、ダンプカーで突っ込んで建物を破壊したといった都市伝説的なものが、今の時代でも語られている。そんな地上げ屋が実力行使というならば、同じ土地絡みでも対極に位置するのが地面師と呼ばれる詐欺師クループであろう。地上げ屋との相違点は土地所有者の与り知らないところで仕事を仕上げる点である。地面師は登記制度や印鑑証明制度の盲点を利用し、様々な手口を講じて登記簿上の所有者に成りすます。

そして、第三者の買主に売却したり、掠め取った土地を担保に金融業者から金銭を騙し取るのだ。無断の移転登記や登記簿を改ざんするにあたって、身分証明書や印鑑証明書の偽造を請負う者、登記簿上の所有者に成りすます者、架空の法人を設立する者、初期経費を用立てする者等々、多くの地面師はグループで動いているのだ。

その一味には司法書士、不動産鑑定士、土地家屋調査士などの専門家が関与することも多いが、何れも「依頼があって業務に携わっただけ」と言うのが、お決まりの逃げ口上だ。当然だが、遅かれ早かれ発覚する詐欺である以上、荒稼ぎした後は素早くトンズラし、頃合を見て新たな仕事で再結集するのが地面師グループの特徴といえる。

さて、そんな地面師グループにも毛色の違う連中が存在する。それは、嵌める土地所有者の懐に敢えて入り込む者達だ。前者の地面師グループは職人的技術と蓄積した知恵と経験で仕事を仕上げる。

語弊があるかもしれないが、一見スマートに思える。しかし、その実態は詐欺でしかない。後者については、何度も嵌める相手と接触し、相手の懐に飛び込んで仕事を仕上げる古典的なものだ。騙すという行為は同じでも、本人の同意を得ている以上は犯罪での立件は難しいといえる。

今回、紙面で報じる地面師による事件は、後者の部類に属するものだ。但し、嵌めた対象が痴呆症気味のお婆さんということで、犯罪性は限りなく濃い事例である。

大正生まれのお婆さんを嵌めた地面師の首謀者は、錦糸町を根城にする地面師集団「総武線グループ」のボスである高橋利久。最近では電通ワークスLED詐欺事件の主犯格としても名が通っている。地面師と架空発注詐欺事件は一見すると畑違いのようだが、どちらも証明書や権利書の偽造を請負う者らが背後に存在する点は一致している。

高橋利久は、その筋では大物と言われるが、お婆さん一人を騙すのに古典的手法で出張ってきたところをみると、金に追われていたのかもしれない。他には、金主及び買受人として登場した大山敏則。そして、お婆さんの懐に入って内縁の夫を演じた笹井文男である。さて事の顛末だが、お婆さんは二十年以上も前に旦那さんを亡くされ、それ以降は件の自宅(杉並区)に一人で暮らしていた。

平成二十三年秋ころ、お婆さんは屋根の修理を計画(これも地面師の仕込みか、或いは単なるお年寄りを狙ったリフォーム詐欺かは不明)していたらしいが、同時期に知合った笹井文男から「より有利な条件で工事が出来る」と勧められ、同年十一月に言われるがままに新たに印鑑登録をした上で、登録印影が押印された委任状、印鑑証明書等を笹井文男に渡した。

ところが、それら書類は目的の工事契約に使用されることなく、土地の売買契約や所有権移転登記に使用されたようだ。因みに、この売買代金額は登録免許税の基準である課税価格一億二千数百万円よりも、約四千三百万円も下回る価格だった。

更には、この契約書のほかに代金額のみが手書きで五千万円に修正された、お婆さんの署名のある売買契約書の存在も明らかになっている。運良く事が進めば、本来の契約書を破棄して五千万円で土地建物を奪おうと画策していたことは明らかだ。加えて、重要な契約書に指示通り署名するお婆さんには、判断能力は無い事を如実に示すことにも繋がる。

大山敏則は更に登記簿を汚す。自らの会社に所有権を移転する前に、一枚噛ました会社に対し二千万円の抵当権を設定。それを数日後に抹消した後、今度は自らが債務者として八千五百万円の借入をした抵当権を設定した。お婆さんが亡くなった旦那さんから相続した土地は、権利関係がまっさらの状態から僅か一週間ほどで、汚れに汚れまくった。

この時点で、地面師の仕事はほぼ終了である。後は第三者に売却するなどして完了の手はずだった。しかし、地面師の思惑通りに事は進まなかった。既に売りに出されていた土地の購入希望者から調査を頼まれているとした業者が、直接お婆さんの自宅を訪ねたのである。そこで初めて自宅の土地建物が他人に渡っていることを知った。業者はお婆さんが騙されていると感付き、知り合いの弁護士を紹介することになる。何処の業者かは知らないが、表彰ものの行いである。

弁護士の行動は迅速だった。弁護士は大山敏則に対して「物件の譲渡並びに質権、抵当権及び貸借権の設定その他一切の処分をしてはならい」との仮処分を申立てたのだ。 仮処分は通ったが、諦めきれない大山敏則は決定取消しの意義を申立てた。当然のこと却下されるのだが、収まりつかないのは大山敏則だ。

裏で糸を引いていたグループのボスである高橋利久には、既に千五百万円(上納?)を支払っている。他にも持出した金額を含めれば、大損をしたことになる。大山敏則は銭を奪い返すが為に、高橋利久を訴え拘留させてるうちに、事務所まで閉め全額を持ち逃げしたという話もある。手下の金主にしっぺ返しを食らうようでは、地面師グループのボスの立場はない。求心力を失った高橋利久は、先だっての六月に電通ワークスLED詐欺事件で逮捕されている。関係者によると「累犯だから、六年ぐらいの実刑になるのではないか」とのこと。

片やボスを裏切った大山敏則は、別件の悪事が捲れ昨年九月に逮捕され、懲役二年(執行猶予四年)の判決を頂戴したようだ。但し、それまでに地面師絡みで稼いだ金二億を持って、井上と名乗る韓国人女を連れ行方をくらましているという。

因みにコマシ役専門の地面師・笹井文男は、五年前くらいに単独でやった件で、いま捕まっている、もしくは懲役に行ってるそうである。

仲間割れした地面師の面々だが、塀の中で御対面となる日もあるかもしれない。

兎に角も、地面師グループに狙われたお婆さんであったが、寸でのところで助かったことは何よりである。

お婆さんは痴呆症で何も分らず笑顔である

中央がコマシ役の笹井文男、右端が金主の大山敏則

大山敏則から一千五百万円を受け取る高橋利久(右)


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