(敬天新聞 令和元年10月号 二面)
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蠢く地面師 |
不動産の売却をもちかけ、多額の代金をだまし取る『地面師』の存在は、一般にはあまり知られていなかったが、戦後間もない頃は、被災の混乱に乗じて被害が多発しており、詐欺の手口としては古くから存在していた。バブル時代には、土地の価格が高騰したことから増加したという。
近年では積水ハウスの他、あのアパグループも巨額な詐欺被害に遭い耳目を集めた。
しかし、メディアで話題と成るのは大手企業が騙されたり、被害金がとてつもなく大きな事件ばかりである。だが、身近な不動産取引きに於いても、地面師や地面師紛いの連中が、暗躍していることがあるので注意が必要である。
この程、弊紙がたまたま入手した不動産取引きに係る書類の中に、そんな地面師紛いの、疑わしいものがあったので注意喚起、被害抑止、公益性を鑑みて、紹介することにした。
その書類は、金銭貸借による金銭トラブルで悩んでいるといって弊紙に相談してきたBさんが持っていたものである。弊紙は個人的な金銭貸借といったトラブルについては一切お断りしている。そこに詐欺行為など公序良俗に反する事が介在していない限り、取り上げることは無い。Bさんにはその旨をしっかりと伝えたうえで、一応どんな話か伺ったのである。
Bさんの話は、平成二十四年頃に遡る。Bさんは不動産業を営む「S忠雄」に多額のお金を貸して騙されていたという。
Bさんは、S忠雄の知人を介して知り、信用していたようだ。一見、真面目なサラリーマン風のS忠雄だが、一向に返済してくれないので、何度か面談して今後どのように返済していくのかをS忠雄に説明を求めたという。
そこでS忠男は、「いま手掛けている仕事で大きな金が入ってくるから少し待って下さい」と言いながら、その証拠として不動産取引きに係る書類を差し出したそうだ。
その書類は、練馬区に住む田辺順子さん(仮名=現八十歳)が所有する土地(練馬区立野町)を売買するために用意したという書類で、順子さんの印鑑証明(資料@)、住民票、国民健康保険証、預金通帳に加え、鰍rIP(松本佳祐社長=千代田区神田※破産)が順子さんに宛てた売買価格二億七千三四〇万円の買付証明書(資料A)のコピーである。
だが、それから何日が経っても一向に返済してくれないので、Bさんは再びS忠男に面談し、順子さんの土地の売買はどうなったのか問い詰めると、S忠男は「実は」と切り出し、鰍rIPから手付金二千万円を得て取引きを進めていたのだが、登記所で不動産登記を受け付けてもらえず、売買は失敗したと打ち明けられたそうである。
そして、鰍rIPに対して「金銭を詐取しました」「どのような事があっても返済する」と記した書面(資料B)をBさんに示し、返済できる状況にないと弁明してきたという。これはいったいどういうことなのか?
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書類の真偽 |
Bさんよると、
「つまり、土地の所有者である田辺順子さんの承諾を得ずに売却しようと企て、偽造した順子さんの住民票などを使って、SIPに売却を持ち掛け、買付証明書を受け、手付金を得たが失敗に終わり、詐取した形になった」というのである。
これらの資料はS忠雄ご自身がBさんを納得させるために示した書類であるというから、信憑性は高いと思われる。
この事について弊紙はS忠男に質問状を送ったが回答は無かった。なので電話取材を試みたが、S忠男は電話に出るなり此方の話を聞こうともせず「事実無根だ」といって電話を切った。また、SIPの松本社長にも質問状を送ったが回答が無かったので、電話取材を試みたが、何故か被害者の筈なのにS忠男と口裏でも合わせたように「私は関係ない。話すことは何もない」と言って電話を切ってしまった。
そこで、この不動産取引きに使用された田辺順子さんの書類や売買が、事実に基ずくものなのか確認するために田辺順子さんの自宅を訪ね、本人に取材を申し入れた。
順子さんの自宅を有する土地は草木が生い茂り、広く纏まった土地である。庭にはナンバープレートの無いベンツが放置され、一見すると空き家の様に見える。中央線と西武線の駅から近く、古い建物を有し、順子さんも高齢であることから、不動産の売買やマンション経営を企てる業界の人達が、目をつける条件が整った佇まいだ。
二階で食事中であった為、上の方から窓越しに質問に応じてくれた順子さんは、想像していた以上に元気で、はっきりとした口調であった。
弊紙取材班が、S忠男やSIPの名前を挙げて、順子さんの名が記された住民票や保険証や買付証明書を示したところ、順子さんは「そんな人は知らないし、私が土地を売ろうとしたことなんて一度もないよ。そんな話は全部嘘だし、その書類は偽物だよ!」と声を張り上げて答えてくれた。
更に「ここは、しょっちゅう詐欺師に名前を使われて迷惑している」「数年前も事件が起きた。ここを使った地面師が逮捕されて懲役七年行ってるよ!」と教えてくれた。
その事件というのは、平成二十九年五月『他人の土地を無断で売却、二億八千万円詐取容疑 男ら二人逮捕』と報じられた地面師事件のことらしい。
順子さん曰く、「ここはいろんな人が訪ねて来る。警察も何度か来たよ!」というように、住人の意に反し妙な所で有名のようだ。
順子さんは、弊紙の資料を警察に持って行くからコピーが欲しいと言っていた。情報提供者のBさんも、この事を踏まえ刑事告発と宅地建物取引業の免許剥奪を視野に所管官庁への告発を準備中であるという。
現在、不動産業の鰍r社(渋谷区広尾)やD開発梶i練馬区小竹)で代表取締役を務めているというS忠男だが、果たして弁明の余地はあるのだろうか?