(敬天新聞 令和3年11月号 1面)
無責任な大学トップ |
日本大学付属病院の立て替え工事を巡り大学から2億2000万円を流出させたとして10月7日、日大の井ノ口忠男理事と仲間である籔本雅巳・医療法人「錦秀会」前理事長が東京地検特捜部に背任容疑で逮捕された。
家宅捜索を受けてから、一か月後の逮捕である。その間ダンマリを決め込んでいた日本大学本部であったが、二人の逮捕を受けて、取り敢えず大学のホームページで謝罪の一報を流した。しかし、会見は開かれなかった。
全く権限のない名前だけの理事ばかりだから、右往左往しているだけで、どうしていいのかわからないのだろう。ならば全員が辞表を出すぐらいの常識をせめて持ち合わせていればよいのだが。文科省は学校法人としての体を成していない理事会に対して、監督官庁として厳しい指導をするべきであろう。
日大の田中英壽理事長も大きな勘違いをしている。大学本部や事業部、自宅が家宅捜索を受け、任意の事情聴取も受けている。だけど「自分は金を貰ってない、関係ない」と説明したらしい。
一般人なら、その説明で通用するだろう。しかし田中理事長の立場は、日本で一番大きな私立大学の理事長と言う立場であり、私立大学として国から一番の助成金を貰っている立場の理事長である。正確には、アメフト危険タックル問題に関連して、文科省が日大に交付する私学助成金を35%減額したので、今は一番ではない。
本来なら、この減額問題一つをとっても、理事長の退任が迫られても仕方がない問題であった筈だ。それを、得意の何も説明しない「逃げ恥」作戦で見事に風化させて乗り切った経緯がある。
だが今回は、あの時の事情と全く状況が違う。あの時は、直接的な関係を問われたのではない。あくまでも大学の最高責任者として説明責任を問われたのである。それを風化して、逃げ切ったという話だった。
しかし、今回は理事長自身と、理事長夫人が推薦して入れた井ノ口理事と、アベ友ならぬ「タナカ友」である医療法人トップの事件関与が疑われているのだ。その為の関連個所のガサ入れである。危険タックルの時とは、田中理事長に対する責任の重みは、全く違う筈である。特捜が、あれだけ大々的な家宅捜索をしたのだから、何もないことは無いだろう。
この原稿を書いている10月23日の時点では逮捕された井ノ口氏は理事を辞任している。籔本氏は特捜の調べに対して、田中理事長に6000万円を渡したと供述していることが報じられている。ただ両氏とも事件との関連性は否定しているらしい。この記事が出る頃には、拘留期限も過ぎているから、大きな進展があるかもしれないし無いかもしれない。
しかし現時点でも、日大の理事が、退任した者も含めて27人も特捜に呼ばれたらしい。中には3回も呼ばれた者もいるというから、特捜の本気度が伺える。だが殆どの理事は「事業部」の内容については、知らされていないので、今回の件では答えることはできないだろう。
恐らく、「理事でありながら大学内で起きている事象なのに、何も知らないなんて、何の為の理事ですか? この建て替え工事や設計会社の予算について審議した筈でしょう? 中身も知らずに賛成したのですか?」と検事さんに叱られたのではないだろうか。
ただ、何も知らない理事であっても、田中理事長の威を借りた井ノ口氏の独断で物事が決まると言うのは、誰もが認識していた筈である。そして井ノ口氏とその実姉である橋本稔子女史(籔本を理事長夫妻に繋いだ)と、田中理事長が唯一頭が上がらない優子夫人を通じた異常な関係というのは、幹部職の人間であれば、誰もが知っていた事実である。
日大執行部を弊紙が「ちゃんこ田中体制」と揶揄するのは、日大の重要案件が理事会では無く、優子夫人が切り盛りする阿佐ヶ谷の「ちゃんこ料理屋たなか」で話し合われるからである。
現状の日大体制ではこの四人の了解・承認が無ければ、昇格ができないという仕組みになっていることは、誰もが知ってる事実である。だからこそ、特捜部も田中理事長の自宅まで家宅捜索して、これだけの人数の理事を事情聴取したのだろう。そして理事長夫妻が直ちに揃って入院したのも、無関係とは言えまい。
田中理事長夫妻とその後ろ籔本と井ノ口(右)
数々の問題と責任 |
捜査で金の流れも殆ど掌握されてきたようだ。田中理事長は否認すればするほど、別件が出て来るだろう。
ただ「背任罪」は、証明が複雑らしい。仕事を出して、見返りにキックバックを貰うだけでは罪にならない。
最初からキックバックを貰うことを前提に、本来必要のない金額を上乗せして業者に払いその上でキックバックマージンを貰えば「会社に損を与えた」から「背任」になるという、素人には真に理解しづらい容疑なのである。また「背任罪」で起訴しても、強力な弁護団によって最高裁まで争い、抵抗することもあるだろう。
この際だから、誰もが証言している自動販売機設置に関する「入れ替え問題」について、サントリーや、コカ・コーラから事情を聴いたり、保険会社に事業部の職員の給料を払わせていた件なんかも、調べてみたら如何だろうか。
田中理事長は周辺者に「日大に損害はないのでは?」と如何にも「背任罪」での法的レクチャーを受けたような知識を披露しているらしい。特捜の聴取でも自分は事件に関係ないと言いながら、大学として被害届を出さないという理不尽なことを平然と言っている。
井ノ口氏が貰う資格のない金を細工までして受け取ってるわけだから、大学に損害を与えているのは、猿でもわかる理屈である。大体コソコソ儲けてるのは、この問題だけじゃないだろう。
何れにしても、先ずは記者会見を開いて、説明責任を果たすべきである。そして、辞任することが田中理事長の果たすべき最大の責務であることは言うまでも無い。
ちゃんこ屋にて曙と理事長夫人、その後ろ内田と井ノ口・橋本姉弟