上場企業の怠慢から数多い投資家の利益を護ろう

 論文『“経営管理”=“総合リスク管理システム(TRM)”導入』(佐藤昌弘著)に目を通して、大変驚かされた。信じ難いことだ。日本の企業が、軒並みに、「経営管理」に欠陥を抱えているという。詳しく真相をつきとめるために、論文の筆者RMコンサルタント佐藤昌弘氏から、直接確かめることにした。佐藤氏の説明は、客観的に立証できる資料を、多種揃えていたので、信頼性はあった。3時間の取材からわかったことは、基本的に大きな問題点が、2つあることだ。次のとおり。

@ 日本の上場企業の殆どが、「経営管理」上に、致命的な欠陥を抱えていること。
A 欠陥を抱えていることに、殆どの企業の、殆どの役員・社員が気付いていないこと。

 RMコンサルタント佐藤氏が、米国企業(上位500社)の「経営管理」が、1つのシステムを導入して、欠陥が生じないよう歯止めをしているのを知ったのが、70年(昭和45年)。35年もの年月が経過したことになる。情ないことに、日本企業は、なにかというと、すぐ米国企業のマネをする傾向がある。近年でも次の2テーマは、上場企業が高い比率でマネている。

・執行役員制度。
・コーポレート・ガバナンス。

 かっこよく見えることには、すぐとびつく。ところが、「経営管理」に歯止めをかけるような地味なことには、見向きもしないようである。しかしながら、日本の上場企業が、「経営管理」上の欠陥を解消しないかぎり数多くの投資家は、大打撃を受けるおそれがある。現にこの35年の間に、日本企業が不測の事態に襲われると、必ずといっていいほど、大きな欠損を出している。そして株価が下落するとか、無配に転じている。そんな事件が、数えきれないほど生じている。そのたびに、多くの投資家が打撃を受け、泣き寝入りさせられていると佐藤氏は歎く。「経営管理」に歯止めができている米国企業では、大株主や一般投資家に打撃を与えることは、あり得ないという。「経営管理」の“責任体制”を完璧に確立しているようだ。

 本紙社主・白倉康夫とRMコンサルタント佐藤昌弘氏との3時間にわたる対談を、3回にわたり、連載する。

 
 「経営管理」で、米国企業に50年遅れている日本企業
 
 警鐘を鳴らして
 29年も経つ――
 まだ目覚めない日本企業
社主  新年おめでとう。元気そうだね。
佐藤  明けまして、おめでとうございます。今年も、国づくり、社会づくりに、正義のご活動を、期待申し上げます。微力ながら、お手伝いさせていただければ光栄です。
 おかげさまで、大病(脳梗塞)後の療養生活も、5年を経過して、すっかり健康を回復することができました。近く、仕事に復帰します。
社主  あなたの論文を読んで、大へん驚いた。重大な社会問題だと感じた。
佐藤  あの論文はテーマが専門的なので、多くの方々に理解していただく点で、限界があります。
 80年(昭和55年)ごろから、2年か3年ごとに、新たに作成してきたのです。
社主  論文の表紙が2001とあるが、21世紀に入った最初の年という事だね。それにしても、長期にわたって、大へんなご苦労があったのだろう。
佐藤  6年間、米国企業の「経営管理」を研究しました。
 これは特別なシステムでもなんでもない。「経営管理」には、欠くことのできない歯車の1つだと感じたのです。
 そこで、「経営管理」に不可欠な歯車をとりつける提案をはじめたのです。76年(昭和51年)に始めました。
社主  ヘェーなんと、29年も経つではないか。日本企業は何をしているのか。RMコンサルタントの助言にまったく耳を貸さなかったのか。
佐藤  76年(昭和51年)からは、確かに29年経ちました。97年(平成9年)までの21年間は、エネルギーの85パーセントを投じてきました。しかし、97年(平成9年)からは、エネルギーの30パーセント程度にセーブしたのです。
社主  それでも21年間も、日本企業のために、盡したのに、企業は好意を無にしているねぇ。
佐藤  「日本企業が変わらなければ、日本はよくならない」と企業に懸命に提言していました。私の父は、よき理解者の1人でした。
 その父が、95年(平成7年)に92歳で他界したのです。
 私は、多くの投資家を護るために、企業に警鐘を鳴らし続けてきたのです。父の死後、上場企業に失望して、若干手をゆるめたことは事実です。しかし21世紀に突入してしまいました。数多くの投資家たちを見捨ててはいけないと考えて、あの論文を記述しはじめたのです。
 
 「経営管理」の欠陥で大打撃を受けた企業に見られない改革
 
 「経営管理」の“責任体制”不在のため、地震の打撃大きい三洋電機
社主  新潟中越地震により工場が打撃を受けた三洋電機が700億円強の赤字になるとの報道があった。いつまで経っても、情ないねぇ。
佐藤  東洋経済新報社の「役員四季報」(2005年版)で三洋電機のページを開いてみると、すぐわかります。「経営管理」の責任体制は不在なのです。地震保険、利益保健を採用していなかったようです。
 「経営管理」の責任者を置いていなければ、保険を採用するか、自家保険にするかの判断ができないのです。
社主  保険を採用しない場合の自家保険とは、どうすればよいのか。
佐藤  リスク対策は、3本柱となっています。次のとおりです。
A 損失の予防策
B 損失穴埋め資金計画
C 事故解決
 3本柱の中で、損失を穴埋めする資金計画が完璧であれば、利益を減少させることは防げるのです。損失穴埋め資金計画のことを、リスク・ファイナンスと呼びます。
 リスク・ファイナンスは理論的な説明をする時間がないので、邪道ですが、実務的に話します。
 自家保険が可能なリスクとは、損害額の小さい性格のものだけです。地震のように巨大損失につながるリスクの場合は、自家保険はムリなのです。地震リスクのようなものは、保険料が高くついたとしても、保険を採用するしか手段がないのです。
 いずれにせよ、「経営管理」の“責任体制”がなければ、話になりません。
 
 巨額損失で苦しんだワースト5社
社主  今までに、巨額損失を受けた企業の中で、累計または、年間の額が大きかったワースト5。実名を挙げて欲しい。
佐藤  90年(平成2年)から04年(平成16年)の15年間に、大きい損失が生じて大打撃を受けた企業の事例を洗い出してみます。
 1,000億円を超える損失を流出させた企業が、5社あるのです。次の5社です。
・ 昭和電工
・ 雪印乳業
・ 三菱自動車
・ 住友商事
・ 旧大和銀行
右の中で住友商事と旧大和銀行は、多数の社員、行員の中で、いずれもたった1人の幹部社員、幹部行員が不正を行った事例です。不正に資金を流用し、個人的な投資に走り、多大な穴をあけた事件です。
昭和電工、雪印乳業、三菱自動車(社名変更した)については、あらためて、事例研究で詳しく採り上げます。
3社とも製造業であり、自社の製品の欠陥による損害賠償金や製品の回収(リコール)費用です。
 
 改革がないのは、欠陥に気づかないから
社主  1,000億円以上損失を経験したワースト5社と、論文の事例研究では、もう少し損失額の小さい会社もあったね。同じ失敗を二度と繰り返さないような改革をなぜ行なわないのだろうか。
佐藤  その点は、私もずっと不思議に思ってました。反省していないことは、ない筈です。ただ、失敗した原因を、つきとめられずにいるのではないかと、推察していました。小職がずっと提案してきた、米国企業の「経営管理」についての研究を怠っているのでしょう。努力がかけています。
 「経営管理」には、先ず“責任体制”が必要だということに気づかない限り改革は起こらないでしょう。
社主  ワースト5社の、最近の改革ぶりを、チェック・ポイントにより、チェックしてみてはどうか。
佐藤

 やってみましょう。
 まず昭和電工。同社は、執行役員制は導入していません。役員リストを見渡せば、社長を筆頭に取締役は11名。社長の次席ナンバー2は、技術本部長。その次がアルミニウム事業本部長です。社長の次からの10名の取締役の中には、経営管理はおろか、経営計画、財務、経理、総務、人事などの担当は全く不在。この会社は改革には遠すぎます。

 次に雪印乳業。同社は執行役員制を導入してます。したがって執行役員の名簿でチェックします。社長の次席ナンバー2は、常務執行役員関東販売本部長。次のナンバー3も、常務執行役員関西販売本部長。社長から数えて、5番目が執行役員財務部長では、合格点はつけられないのです。

 次が三菱自動車。同社は社長の次席ナンバー2の常務に、最高財務責任者(CFO)という肩書きを与えています。04年6月就任です。今年度からです。この名称は、有力な米国企業の肩書きをそのままつけたものです。役割も米国企業の範囲を参考にしているのでしょう。「経営管理」の責任体制まで導入しているかどうかを調査したいと考えます。リコール問題でガタガタになったが、日本企業では極めて珍しい理想の役員体制です。

 旧大和銀行は、合併して消滅。

 商社の住友商事が最後です。執行役員制を導入しています。社長の次席は副社長執行役員金属部門長です。管理部門は全く見られません。わずかに、三菱自動車だけに改革が見られます。とくに昭和電工、雪印乳業は、改革までに、距離があり過ぎます。

 
 NHK会長攻撃より、自社役員の怠慢に気づくことが先決
社主  NHKが幹部社員の不正がいくつかあって、会長の責任が問われている。上場企業は、何千億円もの損失を出しても、経営陣が責任を問われないが。
佐藤  NHK受信料の不払い件数が驚くほど多い件数になっています。あの不払い受信料の50パーセント以上は、上場企業の役員・社員の家庭ではないかと推察します。上場企業に勤務する社員は、自分の会社が数多くの投資家に打撃を与えたり、これからも損失を与えかねない実態をいち早く知るべきです。そして経営トップと全役員に改革を迫るべきです。自社の無責任ぶりをタナに上げて、NHK攻撃とは筋ちがいも甚しい。
 NHKの不正総額は1億円前後でありましょう。90年代に生じた住友商事、旧大和銀行幹部社員の不正流用事件の額は、NHKの1,000倍を超える1,000億円超の巨額なものだったのです。NHK会長の責任が軽いとは思いませんが少なくとも上場企業の役員・社員は、受信料を不払いする資格はないと考えます。
社主  上場企業勤務の社員が自分の会社の「経営管理」上の欠陥に気づかないことは、怠慢ではないか。
佐藤  そのとおりです。上場企業の社員も目覚めて経営陣の尻を叩くべきです。
 上場企業の社員たちが、自社の「経営管理」上の欠陥に気づくチャンスをつくらなければいけないと考えます。
(以下次号)
 
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