(敬天新聞令和7年5月号 1面)
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関税の真意は? |
あの男が再び世界を騒がせている。アメリカのドナルド・トランプ氏のことである。実業家から大統領へと成り上がり、米国第一主義を旗印に『トランプ節』を炸裂させた男である。彼の政治手法には、常に「予測不能」と「商売根性」が付きまとう。
中でも波紋を広げたのが、「突拍子もない関税政策」である。今日の関税率が明日の関税率ではない。フェイクなのか本音なのか、本人にもわかっていないのではないかと思わせるほどの「コロコロ関税」である。もはや税ではなく、交渉カード、あるいは恫喝の道具として機能しているという見方が大勢となっている。
私たち庶民からすれば、関税とは「輸入品にかかる税」くらいの理解だが、トランプ氏はこのルールをも、まるでアパートの賃貸契約でも結ぶかのように気まぐれに変えている。倍返しどころか、状況次第では「三倍返し」の強硬策も辞さない構えである。
驚くべきは、その関税発表の軽さである。「売り言葉に買い言葉」で政策を決めているとしか思えないほどの即断即決。そして、世界が右往左往している間、当の本人はフロリダのコースでゴルフ三昧。現代の外交が、ここまでエンタメ化した例がかつてあっただろうか。
アメリカ国内では喝采も上がったが、国際社会からは冷ややかな視線が注がれている。国連、WHОなどの国際機関から次々と脱退し、援助や国際協調を「損な買い物」と切り捨てる姿勢は、まさに「ビジネスマン大統領」ならではの一手である。国の名刺を背負って不動産セールスを展開しているかのような手腕である。
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不動産脳が席巻 |
トランプ氏の発言や行動を追っていると、時折「国際政治とは巨大な不動産取引である」という独特な世界観が垣間見える。たとえば、パレスチナの紛争地を「再開発可能エリア」に見立て、住民を追い出して土地を「売却」するといった話まで飛び出す始末だ。冗談のように聞こえるが、問題は彼の発言の多くに「本気」が混ざっている点にある。
その姿勢は関税政策にも表れている。中国との「関税合戦」においては、皮肉なことに、中国の言い分のほうが筋が通っていると感じさせる場面すらある。もちろん中国にも覇権的な思惑があるのは言うまでもないし、東アジアにおける軍事的緊張を軽視すべきではない。しかし、トランプ氏のやり方には、多くの日本人が違和感を覚えたのではないだろうか。
自国の産業を守ろうとする姿勢は理解できるが、他国の利益を狙い撃ちにし、あたかも「税金」のように関税をかけて搾取しようとする姿は、国際的なフェアプレー精神とは程遠い。そうした姿勢に対して、日本はただ黙って付き従うだけで良いのだろうか。
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トラ後を見据える |
トランプ氏は現在、アメリカ憲法が定める最終任期の2期目にあたる。中国やロシアのように憲法を変えてまで長期政権を狙う独善的なリーダーとは異なり、アメリカでは少なくとも現時点で、再びトランプ氏がホワイトハウスの主となる可能性はない(と思う)。だから影響が及ぶ世界各国は現状に右往左往しているのではなく、「トランプ後」への備えを始めているのだ。
であれば、我が国も今こそ平和ボケから目覚める好機と捉え、これまでのように短期的な「顔色伺い」外交を続けるのではなく、日米安保や地位協定を含めた日米関係全体を、主権国家として見直す時ではないのか。これは単なる外交戦略の修正にとどまらず、戦後日本が抱えてきた「アメリカ依存」という構造的課題の清算でもある。自立した外交、安全保障政策の再構築が強く求められる。
トランプ氏の「不動産感覚」で動く世界観は、いま国際秩序に深い波紋を広げている。日本はその波の中で、何を学び、何を拒むべきなのか。戦後80年、そして昭和100年という節目の年に、我々は重大な選択を迫られている。