(敬天新聞 令和7年5月号3面)
買付商法の常習犯 伊藤誠 (この男の情報求む)
巧妙な詐欺話 |
2023年秋、香港で「ロレックスを買い付けるだけの簡単な仕事」として募集された「副業」は、多くの若者たちを巨額の負債へと追い込む詐欺的な事件へと発展した。
表向きは「正規の業務委託契約」に見せかけられたこの事件、現在では「フォーチュン事件」とも呼ばれ、SNSや掲示板を中心に情報が拡散している。
これまで弊紙で何度か追及してきたこの事件で、実際に被害に遭った一人の男性が、自らが経験した被害体験を回想する手記を4月からネット上で公開している。その男性の証言をもとに、詐欺の手口とその後の対応、そして再発防止に向けた教訓を、注意喚起を広く呼びかける為にも、改めてお伝えすることにした。
大手メディアの報道番組などで大きく取り上げられた
海外で買付け |
「渡航費も宿泊費もすべて会社負担。カードでロレックスを買うだけで報酬がもらえる」。そんな甘い誘い文句で、被害者は株式会社FORTUNE(フォーチュン)という日本の企業から香港への買い付け業務を請け負う形となった。誘ったのは、かつて信頼していた友人で、彼自身もすでに数回の買い付けを経験し、問題なく報酬を受け取っていたという。
このように、知人友人の紹介や口コミで広がる詐欺は、近年増加傾向にあるが刑事事件化が難しい要因のひとつともなっている。
渡航先である香港では、「ゼネラルマネージャー」を名乗る中野正人(後に伊藤誠と判明)が合流し、参加者をいくつかの高級時計店へ案内。実際にはロレックスの現物を見ることもなく、商品の説明もないまま、クレジットカードで高額決済を行わされていた。
インボイス(請求書)には不自然な情報しか記載されず、商品はその場で手渡されることもない。まるで「商品を買った体裁だけを整える」かのような取引は、後になってみると、明らかに不自然で違法性を疑わせるものであった。
帰国後、FORTUNEから郵送されたのは、「業務委託契約書」と称する簡素な書類。形式上は「自己責任で買い付けを代行した」という内容で、同意書への署名と捺印を求めるものだった。
これは、後の法的責任を回避するための巧妙な布石だった可能性がある。詐欺事件において、加害者がよく用いるのがこうした「形式的な同意書」である。
しかし、その中身が実態を反映していない場合、それは「同意」として成立しないと判断されることもある。
伊藤誠は偽名を使っていた
常習犯伊藤誠 |
「中野正人」と名乗っていた男の正体は、過去にも複数の詐欺事件を起こしていた人物、伊藤誠。2006年の「タイ時計詐欺事件」、2007年の「マカオ事件」、2019年の「中野ブロードウェイG.GATE詐欺」など、全て海外で起こしているため、国内での刑事立件には至っていない。
このように、司法の及ばない「越境詐欺」のリスクは、現代の詐欺犯罪において極めて深刻な問題である。
被害者は現在、弁護士の支援を受けながらカード会社との返済交渉を続けている。また、詐欺事件としての立件を目指し、被害者同士での情報共有や警察への相談も継続中である。
「ただの副業のつもりだった。甘かった」。そう語る被害男性は、自らの失敗を公開することで、同じような手口に巻き込まれる人がひとりでも減るようにと警鐘を鳴らしている。
被害者作成の資料(被害者サイト https://makotoito.net/より転載)
今回の事件 |
本件のようなケースでは、以下のような法律が関係する可能性がある。
1.詐欺罪(刑法第246条)欺いて財物を交付させた場合、成立。
2.私文書偽造・変造罪。虚偽の契約書や領収書を用いて搾取行為を行った場合。
3.不実記載・商標法違反。インボイスに虚偽情報がある場合。
ただし、被害が海外で発生している場合、日本の警察による捜査や逮捕が難しく、民事対応や自己破産を余儀なくされるケースが多いのが現状である。
この事件は、単なる「詐欺」という言葉で片付けられない、極めて巧妙で計画的な犯行である。そして、どれだけ慎重な人でも、信頼している人からの誘いであれば、警戒心が緩むことはあるだろう。だが「海外」「高級品」「カード決済」「紹介制」…これらのキーワードが揃った時は、どれほど魅力的な話でも、一度立ち止まり、契約内容やリスクを慎重に確認することが不可欠である。
現在も、フォーチュン事件の被害者は返済や法的対応に追われている。もし、似たような話が自分のもとへ届いたとき、この記事が冷静な判断材料となれば幸いである。それが被害者が回想録に込めた願いでもあるのだから。