中東の戦火に翻弄された日本 国民生活を脅かす終わらぬ紛争

(敬天新聞令和8年7月号 1面)



戦闘終結への一歩

 戦争は始まる時はあっという間だが、終わらせるとなると実に難しい。

六月中旬、米国とイランは戦闘終結に向けた覚書に署名した。ホルムズ海峡の再開や、60日以内の最終合意を目指すことなどを盛り込んだ内容であり、原油価格も下落するなど市場は歓迎ムードに包まれた。

確かに戦闘が拡大するよりは良い。まずは和平に向けた第一歩として評価すべきであろう。

しかし、だからと言って中東に平和が訪れた訳ではない。イランの核開発問題は残ったまま。レバノンではイスラエルとヒズボラの対立が続き、各地でくすぶる火種も消えてはいない。

今回の覚書は和平条約ではなく、言わば「ひとまず撃ち合いは止めよう」という段階に過ぎないのである。

そもそも今回の合意についても、米国とイランの双方がそれぞれ自国の成果を強調している。だが実態は、どちらか一方が完全な勝利を収めたというよりも、これ以上戦火を拡大させれば双方にとって損失が大きいとの判断から生まれた妥協と見るべきであろう。

ゆえに、その約束がいつまで守られるのか、世界は固唾をのんで見守っているのである。



日本向け原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡



物価高の代償

 今回の紛争で改めて思い知らされたのは、遠い外国の戦争が決して他人事ではないということだ。

日本は原油の大半を中東に依存している。そのためホルムズ海峡封鎖の危機が報じられるたびに原油価格が上がり、ガソリン代や電気代が値上がりする。

ただでさえ物価高に苦しむ国民にとってはたまったものではない。スーパーへ行けば食品が高い。ガソリンスタンドへ行けば燃料代が高い。電気料金の請求書を見てため息をついた人も少なくないだろう。

米国には米国の理屈があり、イランにはイランの言い分がある。イスラエルにも安全保障上の事情があるのだろう。

しかし、その結果として世界中の庶民が負担を強いられるのであれば、やはり苦言の一つも言いたくなる。

日本は戦争の当事国ではなかった。それでも経済的には十分に被害者であった。中東で飛び交ったミサイルの代償を、日本の庶民が日々の買い物で支払わされたのである。

そもそもホルムズ海峡は、日本にとって単なる外国の海峡ではない。日本が輸入する原油の大部分がこの海峡を通過しており、我が国の経済活動を支える生命線とも言うべき存在である。

そのため、実際に海峡が封鎖されなくとも「封鎖されるかもしれない」という観測だけで市場は敏感に反応する。原油価格は上昇し、企業はコスト増に苦しみ、その負担は最終的に商品価格へ転嫁される。

近年は円安や世界的なインフレも重なり、食料品や生活必需品の値上げが続いている。そこへ中東危機によるエネルギー価格の高騰が加われば、家計への負担はさらに重くなる。

特に地方では自動車が生活必需品であり、ガソリン価格の上昇は死活問題となる。都市部に住む人々もまた、電気代やガス代の上昇から逃れることはできない。

戦争当事国の指導者たちは国家の大義を語る。しかし、その陰で世界中の無関係な人々の日常生活が脅かされている現実を忘れてはならないのである。



米国トランプ大統領とイランのペゼシュキアン大統領



終わらぬ火種

 今回の覚書についてアメリカが勝ったとかイランが勝ったとか、様々な論評も見受けられる。しかし現実はそんな単純な話ではない。

イランのイスラム体制は維持されている。核問題も未解決である。イスラエルが求める安全保障上の課題も残されたままだ。

一方で米国も当初掲げた目標を全て達成した訳ではない。結局のところ、双方とも決定的な勝利を得られず、これ以上戦火を拡大させないために妥協点を探ったというのが実情ではないだろうか。だからこそ不安なのである。

覚書に署名したからと言って、来月も再来月も平穏である保証はどこにもない。交渉が決裂すれば再び緊張が高まり、原油価格が急騰する可能性もある。

その時、また影響を受けるのは一般国民である。

今回の中東危機は、日本にエネルギー安全保障の重要性を改めて突き付けたとも言える。資源の乏しい我が国にとって、海外情勢の変化はそのまま国民生活の問題となる。再生可能エネルギーの活用や調達先の多角化を進めることも重要であろう。

しかし、それ以上に望まれるのは中東地域そのものの安定である。我が国は戦後長年にわたり、中東諸国との友好関係を築いてきた。軍事的対立とは一定の距離を保ちながらも、エネルギー供給という面では中東の平和と安定に大きく支えられてきたのである。

だからこそ日本は、この地域の紛争を決して他人事として見ることはできない。平和とは綺麗事ではない。ガソリン価格を安定させ、電気料金の高騰を防ぎ、国民の暮らしを守るための現実そのものである。

中東の戦火が日本の家計を直撃した事実を、我々は忘れてはならない。そして関係各国には、武力による威嚇と報復の連鎖ではなく、対話と外交による解決を強く求めたいものである。

今回の覚書が一時的な休戦に終わるのか、それとも真の和平への第一歩となるのか。その答えは、これからの各国の責任ある行動に委ねられている。日本国民としては、二度と世界経済を揺るがすような戦火が広がらないことを願うばかりである。



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